介護事故

2025/02/02 介護事故

認知症患者の事故リスクと介護施設の責任:安心できるケア体制を実現するために

はじめに

認知症は高齢者人口の増加に伴い、介護現場で非常に多く見られる疾患です。認知症患者の方は記憶障害や判断能力の低下により、転倒や徘徊、誤食などの事故リスクが高まります。施設や在宅でのケアにおいても、スタッフや家族が常に目を配っていても事故が発生してしまうことは珍しくありません。

しかし、そのような事故が生じた際、介護施設の管理体制が不十分であった場合には、施設側の責任が問われる可能性があります。本稿では、認知症患者の事故の代表例や法的責任の概要を示すとともに、事前に行うべきリスク管理と事故後の対応について解説します。

Q&A

認知症患者の事故が起きた場合、どのように施設が責任を負うのでしょうか?

介護施設には利用者の安全を確保する「安全配慮義務」があります。認知症によって事故リスクが高いとわかっていながら、適切な監護や予防策を怠った結果として事故が起きた場合、施設側に不法行為責任や債務不履行責任が認められる可能性があります。

具体的にどんな事故が多いのですか?

代表的なものとして、以下の事故が挙げられます。

  • 転倒・転落事故:認知症の方が方向感覚を失い、階段や段差で転ぶ
  • 徘徊による行方不明:施設のセキュリティ不足で外部に出てしまい、行方不明や交通事故に巻き込まれる
  • 誤食・異食事故:食べ物でないものを口にしてしまう、嚥下障害から誤嚥を起こす
  • 他の利用者とのトラブル:認知症特有の混乱や妄想で他の利用者に怪我をさせる、あるいは逆に殴られてしまう

家族が施設に「認知症の進行に合わせてしっかり見守ってほしい」と伝えていたのに事故が起きた場合は?

利用者の状態を踏まえ、合理的に考えうる予防措置を取っていなかったと判断されれば、施設の過失が認められる可能性が高まります。特に、スタッフ配置が不十分であったり、見守りの体制が整備されていなかったりした場合は要注意です。

事故後、施設側との話し合いがうまくいかない時はどうするべきでしょうか?

事故報告書や医師の診断書、写真などの証拠を整理した上で、弁護士へ相談することもご検討ください。施設側との直接交渉が難航する場合でも、専門家が間に入ることで冷静かつ法的根拠に基づいた解決が期待できます。

認知症患者本人に過失が認められない場合、誰が損害を負担するのでしょうか?

認知症によって意思能力が乏しい場合、本人に責任を問うのは難しい場合もあります。そのため、施設の責任や、家族の監督義務違反(ただし、家族が施設と契約をしている場合は施設管理が優先的に問われる)などが問題となります。

解説

認知症患者の事故と法的責任

高齢者施設には、利用者の身体機能や認知機能に応じたケアを提供する義務があります。認知症患者の場合は特に、転倒や徘徊などを未然に防ぐための環境整備やスタッフ配置が求められます。万が一事故が起きた場合、以下の要件が争点になります。

  • 施設の過失(注意義務違反)
    事故を想定し得る状況だったか、予防措置を講じていたか
  • 事故との因果関係
    施設の監督・管理が適切であれば事故は防げたか

事故防止のためのポイント

  1. 徘徊対策・見守り体制
    出入口の施錠やセンサーの設置、スタッフの見回りなどを強化し、認知症の方が施設外へ出てしまわないようにする。
  2. 個別ケアプランの作成
    認知症の症状や生活リズムに合わせ、転倒リスクを低減する工夫や趣味・活動プログラムを組み込む。
  3. スタッフ教育の充実
    認知症の特徴やコミュニケーション方法を理解し、適切なケアと迅速な事故対応ができるよう研修を実施する。
  4. 家族との連携強化
    家族から利用者の普段の行動パターンや好みをヒアリングし、事故リスクの高い時間帯や行動を把握する。

事故後の対応と注意点

  • 医療機関での診断・証拠保全
    怪我の程度や原因を医師の診断書で明確にしておき、写真や監視カメラ映像があればコピーを確保する。
  • 施設との協議と示談交渉
    施設側の説明に納得できない場合は、第三者(弁護士など)を交えて話し合う。賠償金額や改善策などについて合意を得る形が理想。
  • 裁判手続き
    示談で解決が難しい場合は、裁判を通じて施設の過失・損害を立証する。法的手続きには専門知識が欠かせないため、弁護士のサポートが望ましい。

弁護士に相談するメリット

  1. 的確な過失立証
    介護記録やスタッフ配置、監視カメラ映像などを分析し、施設の管理体制が適切だったかを法的に整理します。
  2. 見落としがちな損害項目のフォロー
    治療費や慰謝料だけでなく、要介護度が進行した場合の将来の介護費用や、家族の付添い負担などの評価も行います。
  3. 交渉・訴訟対応の一元化
    施設との交渉が長引くとストレスも大きいものです。弁護士が代理人として交渉・手続きを行うことで、依頼者の負担を軽減します。
  4. 再発防止策の提案
    問題解決だけでなく、施設の管理体制に改善点があればその提案や合意文書への反映をサポートすることも可能です。

まとめ

認知症患者の事故は、予測が難しい行動や状況が多々あるため、施設側でも管理が難しい側面があります。しかしだからといって、施設の責任がすべて免除されるわけではありません。利用者と家族が安心してサービスを利用できるよう、適切なケアプランや監督体制が必須です。事故が起きた際には、まず事実関係を明らかにし、納得のいく説明と補償を求めることが大切です。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、認知症患者の事故に関して幅広いご相談を承っています。示談交渉から訴訟対応まで、専門知識を駆使して最適な解決策を提案いたしますので、安心してご連絡ください。

 


 

【弁護士法人長瀬総合法律事務所のYouTubeチャンネル 】

企業法務に関する問題を解説したYoutubeチャンネルを運営しています。
ぜひご視聴・ご登録ください。 

リーガルメディアTVはこちら

【メールマガジンのご案内】

無料WEBセミナー開催のお知らせや、事務所からのお知らせをメールで配信しています。
ぜひこちらのご登録もご検討ください。

メールマガジンの登録はこちら

© 弁護士法人長瀬総合法律事務所 損害賠償専門サイト