2025/04/18 介護事故
認知症患者の事故責任と介護施設の対応
はじめに
日本社会の高齢化が進む中、認知症を抱える方は年々増加しており、介護施設でのケアや在宅介護のニーズも拡大しています。しかし、認知症の特性ゆえに徘徊や突発的行動、危険行為への意識の低下などから事故が起きやすい現実も否定できません。徘徊中の交通事故や施設内での転倒、医療ケアのミスなど、認知症ゆえの判断能力低下が絡む事故は誰が責任を負うのか、家族・施設側の悩みは尽きません。本稿では、認知症患者の事故に焦点を当て、その法的責任や事故後の手続き、再発防止のための視点を解説します。
Q&A
Q1:認知症患者が事故を起こし、他人に損害を与えた場合、本人には責任がないと聞きましたが、詳しく知りたいです。
認知症で責任能力が欠如していると判断されるケースでは、本人に不法行為責任が生じにくいです。そのため、監督義務者(家族や介護施設)が監督義務を果たしていたかどうかが問われ、適切な監督さえしていれば事故は防げた可能性が高いとみなされれば、監督義務者に損害賠償責任が及ぶ場合があります。
Q2:介護施設で認知症患者が事故を起こしたり被害に遭った場合、どのように責任が整理されるのでしょうか?
施設は利用者一人ひとりの認知症の程度やケアニーズを把握し、個別ケアプランを作成・実行する義務があります。これを怠った結果、認知症患者の危険行為が予想できたのに防げなかった、逆に認知症患者が適切なケアを受けられず事故に遭ったなどであれば、施設の過失が問われるおそれがあります。
Q3:具体的な想定事故例を教えてください。
代表例は、
- 徘徊による外出・行方不明→交通事故に巻き込まれる、行方不明で大規模捜索
- 施設内の転倒事故→認知症による突発行動、夜間の見守り不足
- 火の不始末→喫煙やコンロ操作などで火災リスク
- 他の利用者への暴力→認知症由来の攻撃性に対処しきれずトラブル
Q4:施設や家族が事故責任を否定する場合、示談でまとまらなければどうなりますか?
最終的には弁護士を通じて法的手段を検討し、裁判で監督義務の内容や事故を防ぎ得たかどうか争われます。認知症の程度や事前のケアプラン、施設の人員配置など、専門的知識が必要になるため早めに専門家へ相談するのが賢明でしょう。
解説
認知症患者のリスクと監督義務
認知症患者は記憶障害や判断力の低下、突発的な行動など、多様な行動心理症状(BPSD)を示すことがあり、家族や施設には日常生活で生じうる危険を予防する役割が求められます。
- 在宅介護の場合
家族が火の取り扱いや鍵の管理、外出見守りなどを徹底する。 - 施設介護の場合
個別ケアプランの策定と職員配置、夜間の巡回、ドアセンサーの設置など多面的な対策。
これらを怠っていたと認定されれば、事故が防げたにもかかわらず防がなかったとして家族や施設に監督義務違反が問われる可能性があります。
事故後の流れ
- 医療機関での治療(または原因調査)
怪我や健康被害があれば診断書を入手。事故の原因が施設設備や家族の管理方法にあったのか調べる。 - ケアプランや監督体制の確認
施設なら個別ケア計画やスタッフの配置状況、家族なら本人の状態と対策をどこまで講じていたかを点検。 - 示談・裁判
当事者間で話し合いがまとまらなければ、法的措置で過失や損害を争う形になる。
弁護士に相談するメリット
- 専門知識を踏まえた事故原因分析
認知症ケアにおける標準的な介護水準や法律上の責任を比較し、施設・家族の過失を検討する。 - 多角的な損害請求
治療費や入院費、後遺障害があれば将来の介護費用、逸失利益などを漏れなく計算。 - 示談交渉・裁判手続きの代理
相手が介護施設の保険会社である場合、個人では話し合いが難航しがちだが、弁護士が法律を根拠にスムーズに進める。 - 再発防止の提言
請求だけでなく、介護環境やケアプランの改善を示談・和解書に織り込み、認知症患者の安全を高めるきっかけに。
まとめ
認知症患者は事故リスクが高いとされ、家族や施設には監督義務が問われる可能性があります。徘徊や火の不始末、転倒などの事故が起きた際に、事前にリスクを把握し対策を講じていれば防げたはずの状況であったなら、監督側の過失が認められる可能性があります。事故後には医療対応を優先し、同時にケアプランやスタッフ配置などを精査し、弁護士に相談して法的措置(示談・裁判)を検討することで、公正な損害賠償と再発防止策を得やすくなります。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、介護事故等の被害者をサポートしております。
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