2025/09/01 コラム
肉体関係なしでも慰謝料は取れる?プラトニックな不倫の法的責任
はじめに
「配偶者が特定の異性と二人きりで頻繁に会い、親密なメッセージを送り合っている。でも、本人たちは『肉体関係はない』と主張している…」
このような、いわゆる「プラトニックな不倫」に、配偶者として慰謝料を請求することはできるのでしょうか。これは法律的にも非常に判断が難しい問題です。結論から言うと、原則として肉体関係がなければ慰謝料請求は困難ですが、例外的に認められるケースも存在します。この記事では、その境界線と法的責任について解説します。
原則:慰謝料請求の根幹は「不貞行為(肉体関係)」
まず大原則として、裁判所が不倫の慰謝料を認めるのは、その行為が「婚姻共同生活の平和を維持する権利」を侵害した、と判断されるためです。そして、この権利を侵害する中核的な行為が「配偶者以外の者との性交渉(肉体関係)」であると考えられています。
したがって、二人きりで頻繁に食事やデートを繰り返す、毎日「愛してる」といったLINEを送り合う、といった行為だけでは、たとえ配偶者として強い不快感を抱いたとしても、原則として法的な「不貞行為」には該当せず、慰謝料請求は認められにくい傾向にあります。
例外:肉体関係なしでも「不法行為」と認定されたケース
しかし、例外は存在します。肉体関係の証明がなくても、その交際が社会的に許容される友人関係の範囲を明らかに逸脱し、その結果として夫婦関係を破綻に至らせたと評価される場合には、慰謝料請求が認められる可能性があります。法律が問題にしているのは、行為の道徳性ではなく、その行為が婚姻関係に与えた破壊的な「影響」と「因果関係」です。
以下に、実際に裁判所が肉体関係を認定せずに慰謝料を認めたケースを紹介します。
- ケース1:同居していたケース
ある裁判例では、女性が相手の男性を既婚者と知りながら同居した事案で、裁判所は慰謝料支払いを命じました。女性側は男性が性的不能であったため肉体関係はなかったと主張しましたが、裁判所は「仮に性的関係がなかったとしても、既婚者と長期間同居する行為自体が、妻の婚姻生活の平和を破壊する不法行為にあたる」と判断しました。 - ケース2:夫婦関係の破壊を積極的に図ったケース
別の裁判例では、既婚男性と交際していた女性が、男性の妻に対し「彼と早く離婚してほしい」「将来結婚を考えている」などと繰り返し伝えた事案で、裁判所は慰謝料を認めました。肉体関係は証明されませんでしたが、女性の行為が夫婦関係を破壊しようとする直接的な攻撃であると評価されたのです。 - ケース3:その他、極めて不適切な行為
ラブホテルに二人で長時間滞在した(たとえ性交渉を否定しても)、キスや抱擁を繰り返すなど、社会通念上、夫婦間の信頼関係を著しく損なう行為があった場合も、不法行為と認定されることがあります。
立証の難しさと慰謝料額
肉体関係がないケースで慰謝料請求を認めてもらうのは、決して簡単ではありません。請求する側が、上記の行為の悪質性や、それによって婚姻関係が破綻したという明確な因果関係を、客観的な証拠で詳細に立証する必要があります。これは、「肉体関係があった」ことを証明するよりも、格段に立証のハードルが高いと言えます。
また、仮に慰謝料が認められたとしても、その金額は肉体関係があったケース(数十万円~数百万円)に比べて、かなり低額(10万円~数十万円程度)になるのが一般的です。
「肉体関係の推認」という考え方
相手が「プラトニックだ」と主張していても、諦めるのはまだ早いかもしれません。直接的な証拠がなくても、状況証拠を積み重ねることで、「肉体関係があったと推認(合理的な推測)できる」と裁判所に判断させることができれば、通常の不貞行為として慰謝料を請求できます。
【肉体関係を強く推認させる証拠の例】
- 二人でラブホテルやシティホテルに数時間滞在した事実(クレジットカードの明細、探偵の報告書など)
- 相手の自宅に深夜から翌朝まで滞在していた事実
このような証拠があれば、「何もなかった」という相手の言い分は、常識的に考えて通用しにくくなります。
まとめ
肉体関係のない「プラトニックな不倫」を理由に慰謝料を請求することは、法的に非常にハードルが高いのが実情です。請求を検討する際は、まず「本当に肉体関係はなかったのか?」「肉体関係を推認させる証拠は本当にないのか?」という点を、冷静に再検討することが重要です。
ご自身のケースで慰謝料請求が可能かどうか、どのような証拠が決め手になるかといった判断は、専門家でなければ困難です。お持ちの証拠を基に、法的にどのような主張が組み立てられるか、まずは一度、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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