2025/09/21 コラム
パワハラの慰謝料相場と増額要因|うつ病になった場合の請求額
はじめに
「上司からの人格を否定するような暴言に、心が壊れそうだ」
「到底達成不可能なノルマを課され、毎日罵倒されている」
「職場で無視され、孤立させられている」
職場のパワーハラスメント(パワハラ)は、働く人の尊厳を傷つけ、心身を蝕む深刻な人権侵害であり、決して「我慢すべきもの」ではありません。パワハラによって受けた精神的苦痛は、会社や加害者本人に対して「慰謝料」として損害賠償を請求することができます。
本記事では、パワハラ慰謝料の相場、請求額が大幅に増額されるケース、そして請求を成功させるために不可欠な証拠について、具体的な事例を交えながら解説します。
1. あなたの受けた行為は「パワハラ」か?法的な定義と6つの類型
法律上、職場のパワハラは、以下の3つの要素を全て満たすものと定義されています。
- 職場内の優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
厚生労働省は、具体的な行為を以下の6つの類型に分類しています。これらはパワハラの典型例であり、ご自身の受けた被害がどれに該当するかを確認することが重要です。
- 身体的な攻撃
殴る、蹴る、物を投げつける。 - 精神的な攻撃
人格を否定する暴言、脅迫、長時間にわたる執拗な叱責。 - 人間関係からの切り離し
無視、隔離、意図的に会議や飲み会に呼ばない。 - 過大な要求
到底不可能なノルマや、業務に無関係な私的雑用の強制。 - 過小な要求
能力や経験とかけ離れた簡単な仕事しか与えない、仕事を与えない。 - 個の侵害
プライベートなことに過度に立ち入る、性的指向などの個人情報を本人の許可なく暴露する(アウティング)。
2. パワハラ慰謝料の相場と、請求額が大きく変動する要因
パワハラで請求できる慰謝料の額は、事案の悪質性や被害の程度によって大きく変動します。
慰謝料の基本的な相場
一般的な裁判例を見ると、慰謝料の相場は50万円~100万円程度となるケースが多いです。しかし、これはあくまで精神疾患の発症など、特に深刻な結果に至らなかった場合の目安です。
慰謝料が増額される要因
以下の事情がある場合、慰謝料は相場を大きく上回り、数百万円に達することもあります。
- 行為の悪質性
暴行など身体への攻撃を伴う場合。「死ね」「給料泥棒」といった人格を著しく傷つける暴言が繰り返された場合。大勢の従業員の前で罵倒されるなど、態様が執拗かつ公開的である場合。 - 加害者の地位
抵抗が困難な役員や直属の上司による場合、パワーハラスメントの悪質性が高いと評価されます。 - 期間と頻度
パワハラが長期間にわたり、執拗に繰り返されている場合。 - 会社の対応
会社に相談したにもかかわらず、適切な調査や対策を怠り、被害を放置した場合。これは会社の「安全配慮義務違反」が問われる重要な要素です。 - 被害の結果
被害者が退職に追い込まれた場合、そして最も重要なのが、うつ病などの精神疾患を発症した場合です。
精神疾患の発症がもたらす請求額への影響
パワハラが原因でうつ病や適応障害などの精神疾患を発症してしまった場合、被害者の精神的苦痛は極めて大きいと判断され、法的な評価は変わります。この場合、慰謝料額は跳ね上がる傾向があります。
さらに、慰謝料だけでなく、以下の損害も合わせて請求可能となります。
- 治療費
通院費用、カウンセリング費用、薬代など。 - 休業損害
精神疾患で会社を休んだことにより得られなくなった給与。
過去の裁判例では、パワハラによるうつ病の発症が認められたケースで330万円の賠償が命じられたものや、パワハラが原因で被害者が自殺に至った悲劇的なケースでは、逸失利益(将来得られたはずの収入)も含め、賠償額が5,000万円、場合によっては1億円を超えることもあります。
このことから、パワハラ被害に遭い心身に変調を感じた場合、直ちに心療内科や精神科を受診し、医師の診断書を取得することが、ご自身の健康を守ると同時に、正当な賠償を得るために最も重要な行動であると言えます。診断書は、パワハラと精神疾患との因果関係を証明する上で決定的な証拠となります。
3. パワハラを証明するための重要証拠
慰謝料請求で最も重要なのは、「指導の一環だった」などという会社や加害者の言い逃れを許さないため、パワハラの事実を客観的に証明する証拠を確保することです。
- パワハラ発言の録音データ
ICレコーダーやスマートフォンの録音機能を使った録音は、強力な証拠となります。 - メールやチャットの履歴
パワハラにあたる内容の文面は、スクリーンショットやPDFで確実に保存しましょう。 - 詳細な日記やメモ
「いつ、どこで、誰に、何を言われ(され)、どう感じたか」を時系列で具体的に記録します。継続的な記録は、それ自体が有力な証拠となります。 - 同僚の証言
パワハラを目撃していた同僚の協力が得られれば、客観性を高める上で非常に有効です。 - 医師の診断書
前述の通り、心身に不調を感じたら、すぐに受診し、診断書をもらうことが極めて重要です。
まとめ
パワハラは、あなたの心と体を破壊する許されない行為です。一人で抱え込み、泣き寝入りする必要は一切ありません。パワハラの事実を証明する証拠を集め、法的な責任を追及することは、あなた自身の尊厳を回復するための大切な一歩です。
しかし、加害者や会社との直接交渉は、多大な精神的ストレスを伴います。労働問題に詳しい弁護士に相談し、あなたの代理人として交渉を任せることで、心穏やかに被害の回復に専念することができます。
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