2025/10/10 コラム
【セクハラ】慰謝料請求の相場と高額化の要因、認められるための証拠と相談窓口
「職場で不必要に体を触られる」 「執拗にプライベートな食事に誘われる」 「性的な冗談や噂を流されて、働くのが苦痛だ」
職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)は、被害者の尊厳を踏みにじり、安心して働く権利を奪う、断じて許されない違法行為です。あなたが受けた精神的苦痛は、「慰謝料」という形で、加害者本人や、適切な対応を取らなかった会社に対して請求することができます。
本記事では、セクハラ慰謝料の相場や、請求額が高額になるケース、請求に不可欠な証拠、そして一人で抱え込まないための相談窓口について、判例を基に解説します。
あなたの被害はどのタイプ?セクハラの2つの法的類型
職場のセクハラは、男女雇用機会均等法上、大きく以下の2つのタイプに分類されます。
- 対価型セクハラ
労働者の意に反する性的な言動に対し、拒否したことを理由に、解雇、降格、減給といった不利益な扱いをすること。地位を利用した悪質なセクハラです。 (例:「デートしてくれたら、この契約を任せる」「断るなら、来年度の昇進はないと思え」) - 環境型セクハラ
労働者の意に反する性的な言動により、職場の環境が不快なものとなり、働く上で見過ごせないほどの支障が生じること。職場で最も多く見られるタイプです。 (例:執拗に肩や腰に手を回す、ヌードポスターを職場に貼る、性的な経験についてしつこく尋ねる)
セクハラ慰謝料の相場と、高額賠償を分ける要因
セクハラの慰謝料額は、行為の態様や被害の程度によって大きく変わります。
慰謝料の一般的な相場
比較的軽微なケースでは、慰謝料は50万円~100万円程度が相場とされています。しかし、悪質な事案ではこの金額を大きく上回り、300万円程度、あるいはそれ以上の高額な和解金や賠償額が認められることも少なくありません。
慰謝料が高額になるケース:事例から学ぶ重要ポイント
慰謝料額を決定づけるのは、個別の要因だけでなく、それらが複合的に絡み合った結果としての被害の深刻さです。特に高額な賠償が認められた著名な判例を分析すると、慰謝料を最大化するための重要な要素が浮かび上がってきます。
例えば、大手かつらメーカーの事件では、元女性従業員が上司からの悪質なセクハラでPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症したとして、最終的に1300万円という極めて高額な解決金で和解が成立しました。この異例の高額和解は、以下の3つの要素が重なった結果と考えられます。
- 極めて悪質な行為と優越的地位の濫用 加害者は直属の上司であり、「数字を達成できなければ彼女になるか、転勤だ」と脅すなど、業務上の地位を悪用して性的な関係を強要しようとしました。無理やりキスをしようとしたり、体を触るなどの行為も繰り返されており、その悪質性は極めて高いと評価されました。
- 深刻な精神的被害 被害者はセクハラにより精神的に不安定となり、休職を余儀なくされ、最終的にPTSDという深刻な精神疾患と診断されました。単なる「精神的苦痛」にとどまらず、専門医による明確な診断が下されたことが、被害の深刻さを客観的に証明し、高額賠償の大きな根拠となりました。
- 企業の不適切な事後対応 報道によれば、会社は被害者が警察に被害届を提出しようとした際にそれを制止したとされています。これは、被害者を保護すべき会社の安全配慮義務(民法715条)に著しく違反する行為です。セクハラの事実を認識しながら放置したり、もみ消そうとしたりする企業の対応は、裁判所の心証を著しく害し、賠償額を増額させる大きな要因となります。
この判例から学べるように、「加害行為の悪質性」「被害結果の重大性(特に精神疾患の発症)」「会社の対応の不誠実さ」が揃ったとき、慰謝料は一般的な相場をはるかに超える可能性があるのです。
請求の決め手!セクハラを証明する「証拠」
セクハラは密室で行われることも多く、加害者が「そんなつもりはなかった」「合意の上だった」などと否定することが想定されます。そのため、慰謝料請求を成功させるには、セクハラの事実を客観的に証明する証拠が何よりも重要です。
- ICレコーダーなどによる会話の録音データ:セクハラ発言を録音できれば、最も強力な証拠になります。
- メール、LINE、SNSなどのメッセージ:不快な誘いや性的な内容のメッセージは、必ずスクリーンショットなどで保存しましょう。
- 詳細な日記やメモ:「いつ、どこで、誰に、何をされ(言われ)、どのように感じたか」を具体的に記録します。継続的な記録は、それ自体が有力な証拠となります。
- 同僚など第三者の証言:セクハラの現場を目撃していたり、あなたから相談を受けたりしていた同僚の証言は、客観性を高めます。
- 医師の診断書:セクハラが原因で心身に不調をきたした場合は、すぐに病院を受診し、診断書を取得してください。これは被害の深刻さを証明する上で不可欠です。
一人で悩まないで。セクハラの相談窓口
セクハラの被害に遭ったら、決して一人で抱え込まないでください。相談できる窓口は複数あります。
- 社内の相談窓口:人事部やコンプライアンス室など。会社には、セクハラ防止措置を講じる法的義務があります。
- 総合労働相談コーナー(各都道府県の労働局):無料で専門の相談員に相談でき、必要に応じて会社への助言・指導や、あっせん制度を利用できます。
- 弁護士:慰謝料請求など、法的な解決を目指す場合に最も頼りになる存在です。あなたに代わって加害者や会社と交渉し、労働審判や裁判などの法的手続きを全て任せることができます。
まとめ
セクハラは、あなたの尊厳と働く権利を侵害する、許されない行為です。我慢して耐え続ける必要は全くありません。勇気を出して証拠を集め、専門家に相談することが、辛い状況から抜け出し、正当な権利を回復するための第一歩です。弁護士法人長瀬総合法律事務所は、セクハラ被害に苦しむ方の味方です。安心してご相談ください。
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