コラム

2026/02/13 コラム

【弁護士解説】発信者情報開示請求が失敗するケースとその理由

はじめに

企業活動において、インターネット上の評判管理(レピュテーション・マネジメント)は今や避けて通れない経営課題です。

Googleマップの口コミに、ありもしない悪評を書かれた」「転職口コミサイトに『ブラック企業』『給料未払い』と虚偽の事実を書き込まれた」「SNSで自社製品に対するデマを拡散された」といった被害相談が、当事務所にも連日寄せられています。

個人の誹謗中傷とは異なり、企業に対する悪質な書き込みは、売上の低下、採用活動の停滞、取引先からの信用失墜など、経営に直結する深刻なダメージ(実害)をもたらします。

しかし、「お客様の声だから仕方ない」「ネットのことはよくわからない」と放置してしまう企業も少なくありません。

本記事では、理不尽なネット誹謗中傷被害に遭った法人・企業担当者様に向けて、企業だからこそ取りうる法的措置(削除、投稿者特定、損害賠償、刑事告訴)や、個人への誹謗中傷対応との違い、実務上の注意点を弁護士が解説します。

企業のネット誹謗中傷を放置する経営リスク

インターネット上の悪評は、一度拡散されると半永久的に残り続ける「デジタルタトゥー」となります。これに対して適切な対応を取らずに放置した場合、企業は以下のような多大なリスクを負うことになります。

1)売上・集客への直接的な打撃

飲食店、クリニック、美容室、小売店など、一般消費者を相手にするBtoCビジネスにおいて、Googleマップや口コミサイト(食べログ、ホットペッパー等)の評価は死活問題です。「食中毒が出た」「院長の態度が最悪」「不良品を売りつけられた」といった書き込みがあれば、新規顧客の足は確実に遠のきます。

2)採用活動への悪影響(採用難)

求職者の多くは、応募前に「転職会議」や「OpenWork(旧Vorkers)」などの口コミサイトで企業評判をチェックします。「サービス残業が横行している」「パワハラが日常茶飯事」「離職率が異常に高い」といった書き込みがあると、優秀な人材のエントリーが見込めなくなるだけでなく、内定辞退の増加にもつながります。

採用コストが無駄になるだけでなく、人手不足による事業縮小のリスクさえあります。

3)社会的信用(ブランド)の毀損

取引先や金融機関も、与信管理の一環としてネット情報をリサーチしています。「経営状態が危ない」「反社会的勢力と関わりがある」といったデマが流布すれば、新規取引の停止や銀行融資への悪影響など、BtoBビジネスにおいても重大な損失を招きかねません。

企業が法的責任を追及できる書き込みとは?

「悪口」であればすべて法的措置が取れるわけではありません。特に企業の場合、個人と比較して「批判を受け入れるべき立場(公的な存在)」と見なされやすく、法的ハードルがやや高い傾向にあります。

どのような書き込みであれば違法性を問えるのか、主な法的根拠を解説します。

1)名誉毀損(めいよきそん)

最も一般的な請求根拠です。法人にも「名誉権」は認められています。

以下の3つの要件を満たす場合、名誉毀損が成立します。

  1. 公然性:不特定多数が閲覧できる状態であること(ネット上ならほぼ満たします)。
  2. 事実の摘示:具体的な事柄を示していること。
  3. 社会的評価の低下:その書き込みにより、企業の社会的評価が下がる可能性があること。

【成立しやすい例】

  • 「この会社は脱税している」
  • 「賞味期限切れの食材を使っている」
  • 「残業代が支払われていない」(実際は支払われている場合)

2)信用毀損罪・偽計業務妨害罪

民事上の責任だけでなく、刑事上の犯罪が成立するケースも多いのが企業被害の特徴です。

信用毀損罪(刑法233条前段)

虚偽の風説を流布し、人の信用(経済的な支払い能力や商品の品質に対する信頼)を毀損した場合。

例:「あの銀行はもうすぐ倒産する」「この食品には異物が混入している」など。

偽計業務妨害罪(刑法233条後段)

虚偽の風説を流布したり、偽計(人を欺く行為)を用いて、人の業務を妨害した場合。

例:虚偽の予約を大量に入れる、デマを流して電話回線をパンクさせるなど。

3)注意点:企業には「プライバシー権」がない

個人であれば「住所を晒された」「電話番号を書かれた」ことがプライバシー侵害となりますが、法人にはプライバシー権が原則として認められていません。

したがって、公開されている本社の住所や代表電話番号を書かれただけでは、削除や損害賠償は困難です。

ただし、従業員の個人名や携帯電話番号が晒された場合は、その従業員個人のプライバシー侵害として対応することが可能です。

法人・企業が取りうる4つの法的措置

被害に遭った企業が取りうる法的手段は、大きく分けて以下の4つです。被害状況や目的に応じて、これらを使い分け、あるいは並行して進めます。

削除請求(情報の消去)

まず最優先すべきは、当該情報の削除です。

  • サイト上のフォームからの申請
    Googleや掲示板の削除依頼フォームを利用します。ただし、Googleマップの口コミなどは、「ポリシー違反」であることを具体的に説明しなければ削除されないことが多く、企業側の主観だけでは認められにくいのが実情です。
  • 送信防止措置依頼
    プロバイダ責任制限法に基づき、書面でサイト管理者に削除を求めます。
  • 裁判所への仮処分申立て
    任意の削除に応じない場合、裁判所を通じて削除命令を出してもらいます。法的な権利侵害が疎明できれば、比較的短期間(12ヶ月程度)で削除が実現します。

発信者情報開示請求(投稿者の特定)

匿名の投稿者を特定し、責任を追及するための手続きです。

「誰が書いたかわからないと気持ち悪い」「元従業員の嫌がらせかもしれないのではっきりさせたい」といった場合に有効です。

202210月の法改正により、新しい「非訟手続」が導入され、従来よりも迅速かつ一体的に特定手続きを進めることが可能になりました。

【特定の流れ】

  1. サイト管理者へIPアドレスの開示を求める。
  2. IPアドレスからプロバイダ(通信会社)を特定する。
  3. プロバイダへ契約者情報(氏名・住所等)の開示を求める。

損害賠償請求(民事訴訟)

投稿者が特定できたら、被った損害の賠償を請求します。

  • 慰謝料(無形損害)
    法人には精神的苦痛がないため「慰謝料」という名目は使いませんが、社会的評価の低下による「無形損害」として賠償が認められます。
  • 調査費用(弁護士費用)
    特定にかかった費用の一部(または全部)を損害として請求できます。
  • 逸失利益(営業損害)
    「書き込みのせいで売上が落ちた分」の補償です。

刑事告訴

悪質な場合、警察に対して告訴状を提出し、加害者の処罰を求めます。

特に「業務妨害」や「信用毀損」に当たる場合、警察が動く可能性は十分にあります。加害者が特定できていなくても、捜査機関が捜査の一環として特定を行うこともあります(ただし、警察の対応にはハードルがあるため、弁護士による告訴状作成が推奨されます)。

企業ならではの壁「公益性と真実性の抗弁」

企業が名誉毀損で訴える際、個人被害と比べて最も高いハードルとなるのが「公益性・真実性の抗弁」です。

法的には、たとえ企業の社会的評価を低下させる書き込みであっても、以下の3つの条件をすべて満たす場合は「違法性がない」と判断され、削除も損害賠償もできません。

  1. 公共の利害に関する事実であること(公共性)
    企業活動は社会的な影響力があるため、その批判は「公共の利害」に関わると判断されやすいです。特にBtoC企業や上場企業などは広く公的な存在と見なされます。
  2. 専ら公益を図る目的であること(公益性)
    「消費者のために情報を共有する」「労働環境の改善を求める」といった目的があれば、公益性があるとみなされます。単なる私怨や嫌がらせであれば否定されます。
  3. 摘示された事実が真実である、または真実と信じる相当の理由があること(真実性・真実相当性)
    書かれた内容が「本当のこと」であれば、名誉毀損は成立しません。

【具体例】

「残業代が出ないブラック企業だ」という書き込み

  • 実際に未払い残業代がある場合(真実)違法とならない可能性が高い(削除できない)。
  • 実際は適正に支払っている場合(虚偽)名誉毀損成立(削除・賠償可能)。

つまり、企業側は「書かれた内容が嘘であること」を客観的な証拠(タイムカードや給与明細など)を用いて反論・立証できなければ、裁判で勝つことは難しいのです。この点が、個人のプライバシー侵害などとは大きく異なる点です。

法人の損害賠償請求における相場と注意点

裁判で認められる損害賠償額についても、法人特有の事情があります。

1)無形損害(慰謝料相当部分)の相場

法人の社会的評価が低下したことに対する損害(無形損害)の相場は、個人の名誉毀損(1050万円程度)よりも高く設定される傾向にあります。

一般的には、50万円〜100万円程度が目安ですが、企業の規模や書き込みの悪質性、拡散範囲によってはそれ以上認められるケースもあります。

2)逸失利益(売上減)の請求は極めて難しい

「この書き込みのせいで、今月の売上が100万円落ちたから賠償してほしい」

心情的には当然の要求ですが、裁判でこれを認めてもらうのは困難です。

なぜなら、「売上が落ちた原因」は他にも考えられるからです(季節要因、競合店の出現、景気変動など)。「ネットの書き込みだけが原因で売上が減った」という因果関係を、企業側が厳密に証明しなければなりません。

実務上、明確な因果関係が認められて営業損害まで賠償されるケースは稀であり、多くは「無形損害」の中で考慮されるにとどまります。

3)調査費用(特定費用)

投稿者を特定するために要した弁護士費用(発信者情報開示請求費用)については、損害賠償請求訴訟において、相当と認められる範囲(費用の全額ではないことが多い)で加害者に請求可能です。

従業員個人がターゲットにされた場合の対応

●●支店の佐藤は態度が悪い」「営業の田中は不倫している」など、会社そのものではなく、特定の従業員が実名で攻撃されるケースも多発しています。

会社として従業員を守る責任(安全配慮義務)

従業員が業務に関連して誹謗中傷を受けている場合、会社には従業員を守るための環境整備義務(安全配慮義務)があります。

「個人の問題だから自分でやりなさい」と突き放すと、従業員のモチベーション低下や離職を招くだけでなく、会社が安全配慮義務違反を問われるリスクもあります。

会社が費用を負担して法的措置を取れるか?

原則として、個人の名誉毀損は被害者本人(従業員)が原告とならなければなりません。

しかし、その書き込みが会社の社会的評価も同時に低下させるものである場合(例:「営業の田中が会社ぐるみで詐欺をしている」など)は、会社自身も原告となって法的措置を取ることが可能です。

また、従業員個人が原告となる場合でも、会社が弁護士費用を支援することは、福利厚生や業務遂行上の必要経費として認められるケースが多いです。顧問弁護士がいれば、会社と従業員が連携して対応することがスムーズです。

企業がやってはいけないNG対応

ネット誹謗中傷への対応を誤ると、火に油を注ぎ、さらに状況を悪化させる(炎上する)危険があります。

× 感情的に反論する

口コミに対して「そんな事実は一切ありません!ふざけないでください!」などと攻撃的な返信をすると、「この会社は客の意見を聞かない」「逆ギレする会社だ」という新たな悪評を生みます。

これを「ストライサンド効果(情報を隠そうとしたり攻撃したりすることで、かえって世間の注目を集めてしまう現象)」と呼びます。返信する場合は、冷静かつ丁寧な事実説明にとどめるべきです。

× 削除代行業者を利用する

ネット上には「誹謗中傷対策業者」「逆SEO業者」などが存在しますが、弁護士資格を持たない業者が、報酬を得て削除交渉を行うことは「非弁行為(弁護士法72条違反)」として禁止されています。

違法業者を利用すると、後にその業者が摘発された際に依頼企業名が公表されたり、業者自体が新たなトラブルの種になったりするリスクがあります。法的な削除交渉は必ず弁護士に依頼してください。

× 自作自演で良い口コミを投稿する

悪い口コミを薄めるために、社員に指示して高評価の口コミを投稿させる行為(ステルスマーケティング)は、プラットフォームの規約違反であるだけでなく、発覚した際に企業の社会的信用を完全に失墜させます。また、202310月から景品表示法の「ステマ規制」も施行されており、法的にも問題となる可能性があります。

まとめ

企業のレピュテーションを守るために

企業に対するネット誹謗中傷への法的措置について解説しました。

ポイントは以下の通りです。

  • 企業への誹謗中傷は、売上減や採用難などの実害を生むため、放置は厳禁。
  • 法人は「名誉毀損」「信用毀損」「業務妨害」で対抗できるが、「プライバシー権」はない。
  • 「公益性・真実性の抗弁」があるため、虚偽であることを証明する準備が必要。
  • 損害賠償では、売上減少(逸失利益)の立証は難しいが、慰謝料相当額や調査費用の請求は可能。
  • 従業員への攻撃に対しても、会社は安全配慮義務の観点からサポートすべき。

ネット上の悪意ある攻撃から会社と従業員を守るためには、スピード感を持った専門的な対応が不可欠です。「どの書き込みなら削除できるか」「特定するのにいくらかかるか」「費用対効果はどうなるか」といった判断は、高度な専門知識を要します。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、企業の誹謗中傷対策・風評被害対策に特化したチームが、削除請求から発信者情報開示請求、刑事告訴までをサポートいたします。

単なる法的続きだけでなく、炎上リスクを考慮した戦略的なアドバイスを提供できるのが当事務所の強みです。

「身に覚えのない悪口を書かれた」「口コミのせいで採用がうまくいかない」とお悩みの経営者様、担当者様は、被害が拡大する前に当事務所にご相談ください。企業のブランドと未来を守るために、私たちが全力を尽くします。


 

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