コラム

2025/01/10 コラム

学校事故の法的責任と損害賠償のポイント

被害者・保護者が知っておくべき知識

はじめに

子どもが学校で事故に遭い、けがをしたり、心身に大きな影響を受けたりすると、保護者や本人にとっては大変な不安とストレスが生じます。とくに「学校事故の法的責任はどのように問われるのか」「学校はどのように損害賠償に応じてくれるのか」といった疑問が出てくるのは当然でしょう。しかし、学校事故の責任問題はさまざまな法律や判例がからみ合っていて、必ずしも簡単に整理できるとは限りません。

本稿では、学校事故が起きた際の法的責任や損害賠償の基本的な考え方について解説していきます。また、関連するQ&A形式でよくある質問にお答えし、具体的な流れや注意点を整理することで、一般の方にも理解しやすいよう努めてまいります。

Q&A

ここでは、学校事故に関する基本的な疑問をQ&A形式で取り上げます。保護者の方々や、学校関係者の方にも参考になる内容をまとめています。

学校で事故が起きた場合、誰が責任を負うのでしょうか?

学校で起きた事故の責任を負う主体は、事故の原因や当事者、学校の設置主体(公立か私立か)などによって変わります。公立学校であれば地方公共団体(市町村や都道府県)が、私立学校であれば学校法人などが損害賠償責任を負う可能性があります。また、教員や職員個人の過失の程度によっては、教員個人も責任を問われる場合があります。

学校側にどのような過失があると、損害賠償が認められるのでしょうか?

学校の安全配慮義務違反が認められる場合に、賠償責任が発生しやすくなります。たとえば、器具や施設の点検不足、適切な監督指導の欠如、危険な状況を放置していたなどが挙げられます。具体的には、学校が「児童・生徒が怪我をしないように十分な注意や管理を行う義務」を果たしていたかどうかがポイントです。

学校事故の損害賠償において、請求できるものにはどのような項目がありますか?

代表的な損害賠償の項目としては、治療費や入院費、通院交通費、休業損害、慰謝料などが挙げられます。後遺障害が残った場合には、後遺障害に対する慰謝料や将来の介護費なども加算されることがあります。具体的な金額や請求の可否は事故の内容によって異なりますので、個別に確認する必要があります。

学校事故の場合、保護者はどのように対応すればよいでしょうか?

まずはお子さんのケガや体調を最優先に考え、医療機関で適切な診察・治療を受けることが重要です。その後、事故発生時の状況や怪我の程度などを正確に把握し、書面にまとめておくとよいでしょう。万が一、学校との話し合いで十分な対応が得られない場合は、弁護士など専門家への相談を検討するとスムーズです。

示談交渉をしたいのですが、学校側と直接話し合うべきでしょうか?

多くの場合、事故後に学校側の担当者や教育委員会、あるいは学校法人(私立学校の場合)と話し合いが行われます。しかし、個人で損害賠償の示談交渉を行うのは負担が大きく、法的知識が不十分だと適正な賠償額を得られない恐れがあります。弁護士に相談・依頼して交渉に臨むことで、適切な結果を得やすくなります。

解説

ここからは、学校事故の法的責任をめぐる基本的な考え方や手続きの流れ、実務上の注意点について解説します。判例や事例をまじえながら整理していきます。

学校事故における法的責任の根拠

学校事故における法的責任は、大きく分けると不法行為責任(民法709条)と、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が中心となります。また、公立学校の場合は国家賠償法に基づく損害賠償請求が認められるケースもあります。私立学校の場合は法人としての責任が問われます。

  • 不法行為責任(民法709条)
    加害行為により他人に損害を与えた場合には、加害者はその損害を賠償する責任を負います。学校事故の場合は、管理責任や監督責任を怠ったことが「過失」として問われることがあります。
  • 国家賠償法
    公立学校の教職員がその職務を行うにあたって違法に生徒に損害を与えたときには、国または地方公共団体に損害賠償請求が可能です。ただし、各事案において教職員個人の責任と公務員としての責任の区別を判断する必要があります。
  • 安全配慮義務違反
    学校の設置者や教職員は、生徒が安全に教育を受けられるように環境や指導体制を整える義務(安全配慮義務)があります。この義務に違反し、結果として事故が生じた場合、損害賠償責任を問われることがあります。

基本的な手続きの流れ

  1. 事故発生
    生徒のケガや被害が確認されたら、まずは緊急対応として医療機関を受診し、健康状態の確認を行います。同時に、学校関係者に事故状況を詳細に報告し、必要書類を作成します。
  2. 原因調査・事実関係の確認
    学校や教育委員会等の調査が行われ、事故原因や過失の有無が確認されます。この段階で、保護者としても可能な範囲で事実を記録し、写真やメモを保存することが大切です。
  3. 損害項目の算定
    治療費、通院費、入院費、慰謝料など、具体的にどのような損害が生じたのかを整理し、請求内容を検討します。後遺障害が残る場合は、将来の治療費や介護費なども試算が必要です。
  4. 学校側との示談交渉
    学校の設置者(地方公共団体や学校法人)、もしくは保険会社との間で示談交渉を行います。話し合いがまとまらない場合は、裁判手続きへと進むこともあります。
  5. 裁判(訴訟)
    示談で合意できない場合は、訴訟に踏み切ることが選択肢となります。裁判では、事故の過失の程度や損害額がより厳密に争われます。判決により損害賠償額や責任の範囲が確定します。

具体的な事例・判例

  • 運動部での過度な練習・熱中症による事故
    部活動において十分な水分補給や休憩指導がされず、熱中症で生徒が倒れてしまった事案では、指導教員に安全配慮義務違反が認められました。
  • 学校施設の不備による転倒事故
    体育館の床や校庭の設備不備(たとえば穴が空いていた、地面が極端に濡れていたなど)を放置し、その結果生徒が転倒して大けがを負ったケースでは、学校や設置者の管理責任が認められています。
  • いじめによる精神的苦痛の問題
    いじめを放置していた学校側に対し、適切な対応を怠ったとして損害賠償責任が問われた事例があります。いじめによるPTSDなど深刻な精神的被害が認定される場合、慰謝料も高額になる傾向があります。

実務上の注意点

  • 事故後は速やかに記録を残す
    学校事故が起きた場合、時間が経つにつれ記憶や証拠はあいまいになりがちです。保護者は、お子さんのケガの状態や病院の診断書、治療経過などをきちんと記録しておきましょう。
  • 示談交渉前に方針を明確化する
    学校側や保険会社と示談する際には、どの項目についてどのような補償を求めるのかを明確にしておく必要があります。曖昧なまま交渉を始めると、納得のいかない結果に終わる可能性があります。
  • 公立学校か私立学校かで手続きが異なる場合がある
    公立学校の場合は地方公共団体を相手方に国家賠償請求を行うことが多いため、手続きが異なります。私立学校であれば、学校法人が直接的な交渉相手となります。
  • 早期に専門家へ相談する
    事故後、学校側がどのような態度を示すかによって、保護者の対応は大きく変わります。示談交渉が難航しそうな場合、弁護士に相談することで、トラブルの拡大を防ぐことができます。

弁護士に相談するメリット

学校事故の損害賠償問題は、個人で進めるには複雑です。以下では、弁護士に依頼することで得られる主なメリットをご紹介します。

  1. 適切な損害賠償額の算定
    治療費や慰謝料、後遺障害の逸失利益など、事故による損害項目は多岐にわたります。法律や判例に基づき、より正確な金額を算定して請求できるようサポートします。
  2. 学校・教育委員会との交渉を代理
    保護者個人で対応すると、感情的な対立が生じたり、専門的な知識不足で不利になったりする可能性があります。弁護士が間に入ることで、冷静かつ法的根拠に基づいた交渉が期待できます。
  3. 適切な証拠収集と主張の構築
    学校事故の場合、事故の状況や過失の有無を立証するために、学校側が保有する記録や映像などを開示してもらう必要があることがあります。弁護士は、法的手続きを通じて必要な証拠を収集し、請求内容を裏付ける主張を組み立てます。
  4. 精神的負担の軽減
    お子さんがケガを負った直後は、保護者の方も心身ともに大きなストレスを抱えがちです。弁護士がトラブル処理を担うことで、保護者や被害者本人は治療や生活再建に集中することができます。
  5. 適切な解決への道筋
    学校事故の責任問題は、長期化するケースも少なくありません。弁護士がつくことで、問題解決の見通しや手続きをスムーズに進められる可能性が高まります。

 まとめ

学校での事故は、子ども本人はもちろん、保護者や学校側にとっても大きな問題です。事故が起きた際には、まずお子さんの安全と健康を最優先に確保し、事実を正確に記録しておくことが重要です。また、学校事故に関しては法律や判例が複雑なうえ、学校の設置者(公立・私立)によって交渉の窓口や手続きが異なる点にも注意が必要です。示談交渉の進め方や損害賠償額の算定は専門知識が問われるため、納得のいく解決を図るには弁護士に相談することをおすすめします。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、学校事故に関する幅広い相談を受け付けており、被害者の方や保護者が安心して事案解決に取り組めるようサポートしております。万が一、学校事故でお困りの際は、遠慮なくご相談ください。

 


 

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