2025/02/01 介護事故
介護職員のミスによる事故と法的責任:利用者を守るためのチェックポイントと対応策
はじめに
介護職員は、高齢者や要介護者の生活を支える重要な役割を担っています。しかし、慢性的な人手不足や過重な業務負担などから、ヒューマンエラー(人的ミス)が起きやすい環境にあることも否めません。たとえば、誤薬や食事介助のミス、身体介助時の不注意など、職員のミスが重大な事故につながるケースが増加傾向にあります。
本稿では、介護職員のミスによる事故と、それに伴う法的責任の問題点を整理したうえで、利用者やその家族が知っておくべき注意事項・対応策について解説します。施設側の業務管理や職員教育の不足が明らかな場合には、損害賠償の対象となる可能性もあるため、ぜひ参考にしていただければと思います。
Q&A
介護職員のミスが原因で利用者がケガをした場合、誰が責任を負うのですか?
原則として、介護施設の事業者(法人)が管理責任を負います。職員個人の過失が重大である場合でも、雇用契約に基づき事業者が利用者に対して賠償責任を負うのが一般的です。その後、事業者が職員に対して一部負担を求めるかどうかは、内部の問題となります。
どんなミスが多いのでしょうか?
代表例としては以下が挙げられます。
- 誤薬:別の利用者の薬を誤って渡してしまう
- 食事介助の不注意:誤嚥や窒息事故を引き起こす
- 身体介助のミス:移乗の際に誤って落下させてしまう
- 記録漏れ:利用者の体調変化に気づかず処置が遅れる
軽微なミスの場合でも、損害賠償を請求できるのですか?
ミスによって「利用者に損害(ケガや精神的苦痛など)が生じたかどうか」が重要です。実害がなければ法的に損害賠償請求を行うのは難しいですが、今後の事故防止のために施設側に改善を求めることは可能です。
介護職員のミスを防ぐために、家族ができることはありますか?
まず、利用者の状態や注意点をスタッフに正確かつこまめに伝えることが大切です。また、介護計画やスタッフの配置、業務マニュアルの整備状況について施設と話し合い、疑問点をクリアにすることで、施設側もミス防止に真剣に取り組むきっかけとなります。
事故後、施設側がミスを認めない場合はどうすればいいですか?
事故報告書や職員の証言、医師の診断書などの証拠を収集し、弁護士へ相談することをおすすめします。施設側と個人で交渉するのは難航しがちなので、法律の専門家を間に挟むことで事実を冷静かつ客観的に検討し、適切な解決を図れます。
解説
介護職員のミスと法的責任の根拠
介護職員が業務上のミスによって利用者に損害を与えた場合、以下の法的枠組みが問題となります。
- 不法行為責任(民法709条)
職員の行為が違法であり、過失によって他人の身体や財産に損害を与えたときに成立します。 - 使用者責任(民法715条)
職員を雇用する事業者(介護施設)が、職員の過失行為について被害者に賠償責任を負う規定です。実務上はこの使用者責任が多く適用されます。 - 債務不履行責任(民法415条)
介護サービス契約において、利用者に対して安全かつ適切なサービスを提供する義務が果たされなかった場合に問われることがあります。
具体的な事故想定例
- 誤薬事故
薬剤の投与を間違えたことで、高熱やアナフィラキシーショックを起こし、入院が必要になった事例。施設側が投薬管理のルールを徹底しておらず、複数の職員が同時に作業していたなどの背景が指摘されました。 - 誤嚥事故
認知症や嚥下機能が低下している利用者に対して、十分な食形態の確認や見守りがなく食事をさせた結果、嚥下障害を引き起こし、肺炎や窒息死につながったケース。事故防止策として、ミキサー食やゼリー食の導入、職員の立ち会い強化などが必要とされました。 - 転落・転倒事故
車いすからベッドへの移乗の際に、職員が誤った介助方法をとったことで利用者が床に落下し、骨折した例。業務マニュアルが整備されていない、または職員が十分に研修を受けていなかったことが原因とされています。
事故後の対応フロー
- 医療機関での受診と診断書取得
まずは利用者の身体を最優先に考え、怪我の程度を把握します。診断書は後の請求や交渉で重要な証拠となります。 - 事故報告書の確認・保管
施設側が作成する事故報告書には、事実関係や職員の証言がまとめられます。不明点があれば書面での回答を求め、記録をしっかり保管しておきましょう。 - 示談交渉または法的手続き
施設側が過失を認め、適切な賠償を提示すれば示談で解決する場合もあります。話し合いが進まない場合は、弁護士を通じて法的手続きを検討します。
弁護士に相談するメリット
- 専門家による過失分析
介護職員のミスがどのような経緯・背景で起きたのか、法的にどの程度の責任が認められるかを客観的に分析します。 - 損害項目の適正な評価
治療費や入院費、慰謝料だけでなく、後遺障害が残った場合の将来的な介護費用など、請求できる損害項目を網羅的に検討します。 - 交渉・裁判手続きの代理
施設側との示談交渉がまとまらない場合、裁判に進んだ際にも弁護士が書面作成や証拠収集を行い、依頼者の主張を的確に支えます。 - 再発防止策の提案
法的問題の解決だけでなく、施設管理や職員教育の改善を促すことで、今後の事故防止につなげることができます。
まとめ
介護現場は複雑な業務内容や人手不足によって、職員のミスが起きやすい環境にあります。しかし、そのミスが利用者の命や健康を脅かす事態を招くことは、決して許されるものではありません。万が一事故が発生した場合には、まず利用者のケアを最優先に考え、同時に事実関係を明確化し、必要に応じて法的措置をとることが重要です。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、介護職員のミスによる事故のご相談を受け付けており、示談交渉から裁判対応まで一貫してサポートいたします。適切な補償と再発防止策を得るため、ぜひお気軽にご相談ください。
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