2025/04/22 介護事故
訪問介護中の事故と賠償:在宅ケアが招くトラブルを防ぐポイントと法的視点
はじめに
在宅介護を選択する高齢者や要介護者にとって、訪問介護(ホームヘルプサービス)は大切なライフラインです。介護職員が自宅へ定期的に訪問し、身体介護や家事の手伝いなどを行うことで、施設に入所せずとも家での暮らしが可能になるため、多くの方にとってありがたいサービスといえます。一方、自宅という施設外の環境で行われる介護ゆえに、転倒事故や誤薬、物品の紛失・盗難など、さまざまなトラブルが発生しがちです。
本稿では、訪問介護中の事故を改めて取り上げ、責任の所在や賠償問題、事故後にとるべき手順や事業所の安全配慮義務などを整理します。併せて、利用者や家族が注意すべき点、問題がこじれた場合に弁護士へ相談するメリットなどを解説し、トラブル回避・解決への指針を示します。
Q&A
Q1:訪問介護中にヘルパーのミスで利用者が怪我をした場合、まず誰に賠償責任を問うのですか?
介護職員(ヘルパー)のミスによる事故では、事業者(運営法人)がまず「使用者責任」(民法715条)を負います。利用者とヘルパーが直接雇用契約を結んでいるわけではないため、利用者は事業所に対して損害賠償請求を行う形が一般的です。事業者は、ヘルパーの教育や監督を十分に行う義務があります。
Q2:利用者が家の中を自由に動き回っている際に起きた転倒事故や、部屋にある物の紛失・破損が発生した場合、どのような責任が問われるのでしょうか?
在宅介護中であっても、訪問介護事業所には安全配慮義務や善管注意義務があります。たとえば、利用者の転倒リスクを認識していたにもかかわらず、必要な見守りを怠ったり、危険箇所の改善を放置していれば、事業所の過失が認められる可能性があります。物が紛失・破損した場合も、ヘルパーが管理や取り扱いを適切に行う義務がありますので、故意・過失があれば事業所が損害賠償責任を負うことがあります。
Q3:在宅介護中に家族が認知症の利用者を見守りきれず事故が起きた場合、家族の責任はどうなるのでしょう?
家族にも一定の監督義務があるため、民法714条(責任能力のない者の監督義務者の責任)に基づいて賠償責任を問われる場合があります。しかし、家族が可能な限りの監督や事業所のサービスを利用していたにもかかわらず、予想を超える突発的行動で事故が起きたとすれば、家族が責任を免れる(または軽減される)可能性もあります。
Q4:事故が起きた場合、介護保険は損害補償をしてくれるのですか?
介護保険は要介護者が介護サービスを利用する際の費用を一部補助する制度であり、事故に対する損害賠償を直接行うものではありません。事故が起きた場合は、事業所(法人)に対して不法行為責任を追及し、示談や裁判によって賠償を得るのが通常の流れです。
Q5:事業所が過失を否定して示談がまとまらない場合、どうすればよいでしょうか?
弁護士に相談し、事業所との示談交渉や、必要に応じて民事裁判を提起する選択があります。ヘルパーの行動記録やケアプラン、事故報告書などを精査し、事業所の安全配慮義務違反が立証できれば、公正な解決に近づきやすくなります。
解説
訪問介護における事故の原因
- 転倒事故
- 段差や狭い廊下などの住宅環境に対して事業所がリスクを認識しながら対策を講じなかった。
- ヘルパーが移乗介助中に目を離し、利用者がバランスを崩して転倒。
- 誤薬・誤嚥
- 薬の時間や種類を間違えるダブルチェック不備。
- 食事介助中に嚥下状態を誤判断してしまう。
- 紛失・破損・盗難
- 家事援助中に家財を壊したり、貴重品が紛失・盗難疑惑が起きる。
- 職員の知識・研修不足
- 認知症への理解不足や、移乗介助の正しい手順を知らないまま行う。
事故後の対応プロセス
- 医療機関の受診
怪我や体調不良があれば医師の診断書で損害内容を確定。 - 事故報告書の確認
事業所が作成する報告書や介護計画の実際の運用を精査し、不備を探る。 - 示談交渉または裁判
事業所が賠償責任を認める場合は示談へ。不調に終わるなら弁護士とともに法的手段を検討。
弁護士に相談するメリット
- 事実関係の整理と立証
ケア記録や職員マニュアルを収集し、安全配慮義務がどの程度果たされていたかを検証。 - 損害項目の確定
転倒による治療費・リハビリ費だけでなく、後遺症が残れば介護費や慰謝料、家族の看護負担(休業損害など)も算入。 - 示談交渉の代理
保険会社や事業所との折衝を弁護士が行い、法的枠組みに基づいて適切な賠償を引き出す。 - 再発防止策の提案
和解内容に、事業所のケア体制やスタッフ研修の改善を含めることで、利用者全体の安全を高める効果が期待できる。
まとめ
訪問介護は、高齢者や要介護者が自宅で暮らし続けるために欠かせないサービスですが、在宅という特有の環境での介護がゆえに、事業所やヘルパーの指導・監督が行き届かず、事故リスクが高まる面があります。万が一、転倒事故や誤薬などが起きた場合、事業所の使用者責任や安全配慮義務違反が問われる形で賠償トラブルが生じやすいです。
事故直後は医療対応を優先しながら、事業所の事故報告書や介護計画を確認し、不明点や不審点があるなら弁護士へ相談して示談交渉・裁判手続きを見据えて動くのが安心です。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、訪問介護中の事故を含む介護トラブル全般にわたって豊富な経験をもち、適正な賠償と再発防止を実現するための支援を行っています。
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