2025/07/26 コラム
物損事故で請求できる損害賠償の範囲は?修理費・代車費用・評価損
はじめに
交通事故に遭ったものの、幸いにもご自身や同乗者に怪我はなかった、というケースは少なくありません。このような、人的な被害がなく、自動車や物だけが壊れた事故を「物損事故」と呼びます。
「怪我がないなら良かった」と安心する一方で、大切な愛車が傷ついたことへの補償はしっかりと受けたいものです。
この記事では、物損事故において請求できる損害賠償の範囲について、基本項目から特に争点となりやすい項目まで解説します。
物損事故で請求できる損害賠償の基本項目
物損事故で相手方に請求できる損害は、原則として「事故によって生じた財産的損害」です。具体的には以下のようなものが挙げられます。
1. 車両の修理費用
事故で壊れた車を、事故前の状態に戻すために必要な修理費用です。ただし、無制限に認められるわけではなく、あくまで「相当な」範囲に限られます。
もし、修理費用が車の時価額(事故時点での中古車市場価格)を上回る「経済的全損」の状態になった場合は、原則として修理費ではなく、事故時点の車両時価額と買い替えにかかる諸費用の合計額が賠償の上限となります。
2. 代車費用(代車使用料)
修理や買い替えのために車が使えない期間、代わりの車(レンタカーなど)を使用した場合の費用です。代車費用が認められるには、以下の点がポイントになります。
- 代車の必要性
通勤や業務、通院などで日常的に車を使っていること。 - 車種の相当性
原則として、被害車両と同程度のクラスの国産車に限られます。 - 期間の相当性
一般的に、修理の場合は1~2週間程度、買い替えの場合は2~4週間程度が目安とされ、保険会社と争いになりやすい点です。
3. 休車損害
被害車両がタクシーやトラックなどの営業用車両(緑ナンバー)であった場合に、その車が使えなくなったことで生じた営業上の損失(逸失利益)です。
4. 積荷などの損害
事故の衝撃で、車内にあったスマートフォンやパソコン、トランクに積んでいた商品などが壊れた場合、その物の時価額が賠償の対象となります。
【要注意】特に争点になりやすい2つの損害
上記の基本項目に加え、請求はできるものの、相手方の保険会社がなかなか支払いを認めようとしない、争いになりやすい損害があります。
1. 評価損(格落ち損)
評価損とは、車を完全に修理したとしても、「事故歴(修復歴)あり」と扱われることで、将来中古車として売却する際の市場価値が下がってしまうことへの賠償です。
保険会社は「修理によって物理的には原状回復している」として、評価損の支払いを原則として認めないという強硬な姿勢を取ることがほとんどです。
しかし、裁判では一定の条件下で評価損が認められるケースがあります。
【評価損が認められやすい条件】
- 車種
高級外車や、市場で人気の高い車種 - 年式・走行距離
新車登録から日が浅く(概ね3年以内)、走行距離が短い - 損傷の程度
車の骨格部分(フレームなど)に損傷が及ぶような重大な修理を要する
これらの条件を満たす場合は、諦めずに交渉・請求する価値があります。
2. 買い替え諸費用
経済的全損となり、車の買い替えが必要になった場合、車両本体の価格だけでなく、買い替えに伴って発生する様々な諸費用も請求できます。保険会社の当初の提示では漏れていることもあるため、しっかり確認しましょう。
【請求できる買い替え諸費用の例】
- 自動車取得税、自動車重量税
- 登録費用、車庫証明費用、納車費用
- 廃車費用
- 事故車両に残っていたガソリン代 など
物損事故では「慰謝料」は原則請求できない
物損事故において最も注意すべき点は、原則として「慰謝料」は請求できないということです。
「長年大切にしてきた愛車が傷つけられて、精神的に大きなショックを受けた」というお気持ちは当然ですが、日本の法律では、財産的な損害については、その損害額が賠償されることで精神的苦痛も慰撫された(慰められた)と解釈されます。
例外的に、ペットが死亡した場合や、自宅に車が突っ込んできて平穏な生活が害された場合などで慰謝料が認められた判例もありますが、稀なケースだとお考えください。
まとめ
物損事故であっても、請求できる損害項目は多岐にわたります。特に、代車費用の期間や評価損については、保険会社の言いなりにならず、法的な根拠をもってしっかりと交渉することが、適正な賠償を受けるために重要です。
保険会社との交渉が難航した場合や、提示された賠償額に納得がいかない場合は、弁護士にご相談ください。専門家が介入することで、認められるべき損害を漏れなく請求することが可能になります。
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