2025/07/29 コラム
交通事故の損害賠償請求の時効はいつ?時効を止める(更新する)方法
交通事故の被害者が加害者に対して損害賠償を請求できる権利には、法律上のタイムリミット、すなわち「時効」が存在します。
この時効期間を過ぎてしまうと、たとえ事故による損害が残っていたとしても、加害者(や保険会社)に対して賠償を請求する権利そのものが消滅してしまいます。
「交渉が長引いているけど大丈夫だろうか」「治療がまだ終わらないけど、時効は進んでいるの?」といった不安をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。大切な権利を失わないために、時効のルールを正しく理解しておくことは非常に重要です。
この記事では、交通事故の損害賠償請求権の時効期間と、時効の完成を阻止する方法について解説します。
交通事故における損害賠償請求権の時効期間
交通事故の損害賠償請求権の時効は、2020年4月1日に施行された改正民法により、ルールが一部変更されました。原則として、人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の時効は、権利を行使できることを知った時から5年です。
ポイントは、いつからカウントが開始されるかという「起算点」が、損害の種類によって異なるという点です。
損害の種類 | 時効期間 | 起算点(カウント開始日) |
---|---|---|
物損の損害(修理費など) |
事故発生から3年 |
事故発生日の翌日 |
傷害による損害(治療費・入通院慰謝料・休業損害) |
権利を行使できると知った時から5年 |
事故発生日の翌日 |
後遺障害による損害(後遺障害慰謝料・逸失利益) |
権利を行使できると知った時から5年 |
症状固定日の翌日 |
死亡による損害(死亡慰謝料・逸失利益・葬儀費) |
権利を行使できると知った時から5年 |
死亡日の翌日 |
特に注意が必要なのは、後遺障害に関する損害です。時効のカウントは事故日ではなく、治療を続けた末の「症状固定日」からスタートします。治療が長引いた場合でも、すぐに時効を心配する必要はありません。
ただし、「症状固定日」をいつと解するかという争いもありますので、油断しないようご留意ください。
時効の完成を阻止する!「完成猶予」と「更新」
時効期間が迫ってきた場合でも、指をくわえて待っている必要はありません。時効の進行をストップさせたり、リセットしたりする方法があります。
1. 時効の完成猶予(一時的にストップさせる)
「完成猶予」とは、その事由が続いている間、時効の完成が猶予される(一時停止する)制度です。
催告(内容証明郵便の送付)
加害者(保険会社)に対し、「損害賠償金を支払ってください」という請求書を内容証明郵便で送る方法です。これにより、6ヶ月間、時効の完成が猶予されます。ただし、これは一度しか使えない暫定的な措置であり、猶予されている6ヶ月の間に、後述する「更新」のための法的手続き(訴訟提起など)を行う必要があります。
2. 時効の更新(リセットして再スタートさせる)
「更新」とは、時効期間がリセットされ、その時点から新たに時効期間のカウントがゼロから始まる制度です。
- 裁判上の請求
訴訟の提起、支払督促の申立て、民事調停の申立てなどを行う方法です。裁判が確定すれば、その時から新たに10年の時効が進行します。 - 強制執行
確定判決などに基づき、相手の財産を差し押さえる手続きです。 - 債務の承認
これが実務上重要です。加害者や保険会社が「賠償金を支払う義務がある」と認めることを指します。具体的には、以下のような行為が「承認」にあたります。- 示談案を提示してくる
- 治療費や賠償金の一部を支払ってくる
- 「支払いを約束します」といった内容の念書(債務承認書)に署名する
時効に関する注意点
被害者の方が最も注意すべきは、「保険会社と交渉している間は、時効は進まない」という誤解です。
単に電話や口頭で交渉を続けているだけでは、法的な「完成猶予」や「更新」の効力は生じません。保険会社が交渉を引き延ばしている間に、水面下で時効が完成してしまうリスクがあるのです。
時効の完成を確実に防ぐためには、保険会社に「債務承認書」などの書面を提出させるか、内容証明郵便による催告や訴訟提起といった法的な手続きを取る必要があります。
まとめ
交通事故の損害賠償請求権には「5年」または「3年」という時効の壁が存在します。特に、治療が長期化したり、保険会社との交渉が難航したりしているケースでは、常に時効を意識しておくことが重要です。
時効の管理には専門的な法律知識が必要であり、ご自身で判断するのは危険です。時効期間が迫っている、あるいは時効について少しでも不安を感じたら、手遅れになる前に、弁護士にご相談ください。弁護士法人長瀬総合法律事務所が、あなたの正当な権利が時効によって失われることのないように対策を講じます。
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