2025/08/26 コラム
不倫相手に「既婚者だと知らなかった」と言われた場合の対処法
はじめに
勇気を出して不倫相手に慰謝料を請求したところ、「彼(彼女)が既婚者だとは知らなかった」「私も騙されていた被害者だ」などと言い逃れをされてしまうケースは、残念ながら少なくありません。このような反論をされると、「それなら請求できないのか…」と諦めてしまいそうになるかもしれません。しかし、相手のその主張が、法的に必ずしも通用するとは限りません。
この記事では、不倫相手に「知らなかった」と主張された場合に、その言い逃れを覆して慰謝料を請求するための法的な考え方と具体的な対処法を解説します。
慰謝料請求の法的根拠:「故意」または「過失」の立証責任
不倫(法律上は「不貞行為」)は、他人の家庭の平和を侵害する「不法行為」にあたります。不法行為に基づく慰謝料を請求するためには、請求する側(被害者)が、不倫相手に「故意」または「過失」があったことを証明する必要があります 1。
- 故意(こい)
相手が「既婚者であると知りながら」肉体関係を持ったこと。 - 過失(かしつ)
相手が「既婚者であるとは知らなかったが、通常求められる程度の注意を払えば既婚者だと気づけたはず」であるにもかかわらず、不注意で気づかなかったこと。
つまり、相手の「知らなかった」という言い分が嘘であること(=故意)を証明するか、たとえ本当に知らなかったとしても「常識的に考えれば気づけたはずだ」(=過失)と証明できれば、慰謝料の請求は法的に可能となるのです。この法廷での争点は、不貞行為そのものの有無から、相手の「認識」へと移ります。請求者側は、相手がどのような状況で交際を開始し、継続していたのかを客観的な証拠で示す戦略が求められます。
「故意(知っていた)」を裏付ける証拠
相手が既婚者であることを知っていた、あるいは容易に推測できたことを示す直接的な証拠を集めることが、相手の主張を覆す最も確実な方法です。
- メッセージのやり取り
LINEやメールで、あなたの配偶者が「妻が」「夫が」「子どもが」など、家族の存在をうかがわせる発言をしている部分。 - 写真や動画
- あなたの配偶者が結婚指輪をつけたままデートしているもの。
- 生活感のある自宅で撮影され、家族写真などが写り込んでいるもの。
- 共通の知人の証言
職場の同僚など、周囲の誰もが既婚者だと知っている状況だった場合の証言。 - SNSの投稿
あなたの配偶者が、SNSに家族との写真や結婚していることを公にしている投稿。
これらの証拠があれば、「知らなかった」という主張を退けることは比較的容易です。例えば、裁判例の中には、ホステスと客の関係において、客が家族の話をしていたことなどから、ホステス側に「故意」があったと認定されたケースもあります。
「過失(気づくべきだった)」を立証する状況証拠
「知っていた」という直接的な証拠がない場合でも、「少し注意すれば既婚者だと気づけたはずだ(過失)」と主張することが可能です。そのために、二人の交際状況に客観的に見て不自然な点がなかったかを検証します。
- 会う時間や連絡の制約
土日や夜間はほとんど会えなかった、電話をしても出ないことが多かったなど、家庭の存在を疑わせる行動はなかったか。 - プライベート情報の秘匿
自分の家族構成や詳しい住所など、プライベートな話を頑なに隠していなかったか。 - 交際期間と関係性
1年以上の長期にわたって交際しているにもかかわらず、一度も自宅に招かれたことがなかったり、友人や家族に紹介されなかったりするのは不自然ではないか。 - 出会いのきっかけ
マッチングアプリで出会った場合、プロフィールに「独身」「未婚」と明確に記載されていたか。記載がなければ、本当に独身か確認する注意義務があったと主張できる可能性があります。
これらの状況証拠を複数積み重ねることで、「独身だと信じ込んだあなたにも落ち度(過失)がある」と法的に評価され、慰謝料の支払義務が認められる可能性が高まります。
実際に、不倫をした側が「自分は『バツイチ』だと嘘をつかれていたので、独身だと信じていた」と反論した裁判例があります。このケースで裁判所は、確かに騙されていたのかもしれないとして「故意」は否定しましたが、「交際の状況からすれば、本当に独身であるかもう少し慎重に確認すべきだった」として「過失」を認定し、慰謝料の支払いを命じました。これは、恋愛関係を結ぶ上での社会通念上の注意義務を示唆するものであり、安易に相手の言葉を鵜呑みにしたこと自体が法的な責任を問われる可能性があることを示しています。
まとめ
諦める前に専門家へ相談を
不倫相手から「既婚者とは知らなかった」と言われたとしても、それが法的に有効な反論とは限りません。すぐに請求を諦めるのではなく、相手に「故意」または「過失」があったことを客観的な証拠に基づいて証明できるかどうかを、冷静に検討することが重要です。
どのような証拠が有効か、どうすれば「過失」を立証できるかといった判断には、専門的な知識と経験が不可欠です。相手の言い逃れに困っている場合は、ぜひ一度、弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。
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