2026/02/25 学校事故
公立学校と私立学校で異なる責任の根拠|国家賠償法と民法の違いとは?
はじめに
学校事故の被害に遭った際、保護者の方が抱く「学校に責任を取ってほしい」という思いは、公立でも私立でも変わりません。しかし、法的なアプローチは全く異なります。
公立学校での事故は、法律上は「国や地方公共団体との問題」として扱われます。一方、私立学校での事故は「私人間(私人同士)のトラブル」として扱われます。この根本的な違いにより、適用される法律が「国家賠償法」になるのか、「民法」になるのかが分かれるのです。
この違いは、単なる形式的なものではありません。「担任の先生個人を訴えられるか」「誰が賠償金を支払うのか」といった、被害者にとって極めて重要な点に影響を及ぼします。
本記事では、複雑になりがちなこの法的な仕組みを整理し、それぞれの学校種別に応じた正しい責任追及の方法を解説していきます。
公立・私立の責任に関するQ&A
解説に入る前に、公立・私立の違いに関してよくいただく質問をQ&A形式でご紹介します。
Q1. 公立学校と私立学校で、一番大きな違いは何ですか?
最大の違いは「誰を相手に裁判を起こすか(被告適格)」です。
公立学校の場合、原則として学校長や担任個人ではなく、学校を設置している「地方公共団体(市町村や都道府県)」を相手にします。
一方、私立学校の場合は、学校を運営している「学校法人」や、場合によっては「教員個人」を相手にします。
Q2. 公立学校の先生個人を訴えることはできないのですか?
原則としてできません。
最高裁判所の判例により、公立学校の教員(公務員)が職務中に過失で事故を起こした場合、賠償責任を負うのは国や地方公共団体であり、公務員個人は被害者に対して直接責任を負わないとされています。これを「国家賠償法上の公務員個人の責任免除」といいます。
これに対し、私立学校の教員は公務員ではないため、個人として法的責任を追及することが可能です。
Q3. 賠償金の金額に違いはありますか?
法律上の計算基準(弁護士基準)を用いる限り、学校の種類によって金額が変わることはありません。
公立でも私立でも、怪我の程度や後遺障害の等級、将来の逸失利益などに基づいて損害額を算定します。ただし、私立学校の場合は、学校独自の保険に加え、賠償能力の観点から学校法人の資産状況が考慮されるケースも稀にありますが、基本的には同等の補償がなされるべきものです。
解説:公立学校と私立学校の法的責任の構造
ここからは、公立学校と私立学校、それぞれの法的根拠について詳しく解説します。
1. 公立学校の場合:国家賠償法に基づく責任
公立学校(市立小学校、県立高校など)の教職員は、地方公務員という身分になります。公務員が業務(公権力の行使)に関連して他人に損害を与えた場合、適用されるのは民法ではなく「国家賠償法」です。
適用条文:国家賠償法第1条第1項
「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」
この法律に基づき、以下の図式が成り立ちます。
- 請求の根拠: 国家賠償法第1条第1項
- 請求の相手方(被告): 学校の設置者である地方公共団体(市、町、都道府県など)
- 責任の要件:
- 公務員(教員)の行為であること
- 職務を行うについて(学校活動中)であること
- 故意または過失(安全配慮義務違反など)があること
- 違法に損害を加えたこと
なぜ教員個人に請求できないのか?
被害者感情としては、「目の前で不注意をして事故を起こしたあの先生に責任を取らせたい」と思うのは自然なことです。しかし、前述の通り、判例は公務員個人の責任を否定しています。
その理由は、「公務員が個人責任を恐れて萎縮してしまうと、円滑な公務(教育活動)が妨げられる」「被害者にとっても、個人資産しかない教員より、財政基盤のある自治体が賠償するほうが救済として確実である」といった点にあります。
ただし、教員に「故意または重大な過失」があった場合に限り、自治体が賠償金を支払った後、その自治体が教員に対して「求償(立て替えた分を返せ)」と請求することは認められています(国家賠償法第1条第2項)。これはあくまで内部の話であり、被害者が直接教員に請求できるわけではありません。
2. 私立学校の場合:民法に基づく責任
私立学校と生徒(保護者)の間には、「在学契約」という私法上の契約関係が存在します。そのため、私立学校での事故には「民法」が適用されます。
私立学校の場合、請求の法的根拠(法律の条文)は主に以下の3つがあり、これらを組み合わせて主張します。
① 債務不履行責任(民法第415条)
学校は在学契約に基づき、生徒が安全に学校生活を送れるように配慮する義務(安全配慮義務)を負っています。事故が起きたということは、この契約上の義務を果たさなかった(債務不履行)として、学校法人に賠償を請求します。
② 不法行為責任(民法第709条)
事故を起こした教員個人の過失によって権利を侵害されたとして、損害賠償を請求します。
私立学校の教員は公務員ではないため、この条文に基づき、教員個人を被告とすることも可能です。
③ 使用者責任(民法第715条)
教員(被用者)が業務中に事故を起こした場合、その雇い主である学校法人(使用者)も連帯して責任を負うという規定です。
教員個人に資力(支払い能力)がない場合でも、学校法人に使用者責任を問うことで、確実な賠償回収を図ることができます。
- 請求の根拠: 民法(債務不履行、不法行為、使用者責任)
- 請求の相手方(被告): 学校法人、および教員個人
- 責任の要件: 安全配慮義務違反、過失、損害の発生、因果関係など
3. 公立と私立の比較まとめ
これまでの内容を整理すると、以下のようになります。
|
項目 |
公立学校 |
私立学校 |
|---|---|---|
|
適用される法律 |
国家賠償法 |
民法 |
|
主な法的根拠 |
国家賠償法第1条第1項 |
債務不履行(415条) 不法行為(709条) 使用者責任(715条) |
|
請求の相手方 |
地方公共団体(市町村・都道府県) |
学校法人 教員個人 |
|
教員個人の責任 |
原則として問えない (被害者への直接責任なし) |
問える (ただし学校法人と共に請求するのが一般的) |
|
時効(権利行使期間) |
損害及び加害者を知った時から3年 (民法の不法行為規定を準用) ※生命・身体侵害は5年に延長 |
債務不履行:権利を行使できる時から10年(生命身体は20年の場合も) 不法行為:損害及び加害者を知った時から3年(生命身体は5年) |
※時効については、2020年の民法改正により変更点がありますが、基本的には上記の違いを認識しておけば十分です。特に国家賠償法は民法の規定を準用するため、時効期間の実質的な差は縮まっていますが、法的構成によって期間が異なる点には注意が必要です。
弁護士に相談するメリット
学校事故の責任追及は、相手が「公立」か「私立」かによって戦略が異なります。専門家である弁護士に依頼することで、以下のようなメリットがあります。
1. 正しい相手方(被告)の特定
「誰を訴えるか」は訴訟の入り口です。
例えば、公立中学校での事故なのに、誤って「校長先生個人」や「教育委員会という組織そのもの(※教育委員会は行政機関であり、法人格がないため通常は被告になりません)」を訴えてしまうと、訴えは却下されてしまいます。正しい被告適格(市なのか県なのか)を見極めるには、専門的な知識が必要です。
2. 学校種別に合わせた証拠収集
公立学校の場合、情報公開請求条例に基づく公文書開示請求が有効な手段となります。一方、私立学校の場合、こうした公的な制度は直接適用されないことが多いため、弁護士会照会や証拠保全手続きなど、民事訴訟法に基づいた証拠収集テクニックが必要になります。
学校の種類に応じた最適なアプローチで事実を明らかにします。
3. 「安全配慮義務違反」の法的構成
公立における国家賠償請求でも、私立における債務不履行請求でも、核心となるのは「学校側に安全配慮義務違反があったか」です。
弁護士は、過去の裁判例から、類似のケース(公立・私立それぞれの判例)を探し出し、学校側の過失を論理的に構成します。
4. 複雑な法律関係の整理
特に私立学校の場合、「学校法人だけを訴えるか」「教員個人も訴えるか」という戦略的判断が必要になります。教員個人を訴えることは、心理的な圧迫を与える効果がある一方で、教員が反発して態度を硬化させるリスクもあります。弁護士は、依頼者様の意向(謝罪を重視するか、賠償を重視するかなど)を汲み取りながら、最適な訴訟戦略を提案します。
まとめ
学校事故における法的責任の追及は、お子様が通っている学校が公立か私立かによって、その土台となる法律が異なります。
- 公立学校: 国家賠償法に基づき、地方公共団体(市や県)に請求する。教員個人への請求は原則としてできない。
- 私立学校: 民法に基づき、学校法人や教員個人に請求する。
この区別は、単なる法律用語の違いではなく、解決へのルートそのものを決定づける重要な要素です。ここを誤ると、正当な権利行使ができなくなる恐れさえあります。
「学校側から説明を受けたが、責任の所在が曖昧だ」「公立学校だから先生には責任がないと言われたが納得できない」といった疑問をお持ちの方は、まずは弁護士にご相談ください。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、公立・私立を問わず学校事故案件を取り扱ってきました。それぞれの法的特性を熟知した弁護士が、被害に遭われたお子様とご家族のために、最適な解決策をご提案いたします。
本記事のポイント
- 公立学校の事故は「国家賠償法」、私立学校の事故は「民法」が適用される。
- 公立学校の場合、相手方は「地方公共団体」。教員個人への請求はできない(国家賠償法の免責)。
- 私立学校の場合、相手方は「学校法人」および「教員個人」。
- 賠償額の算定基準自体には、公立・私立で大きな差はない。
- 学校の種類に応じた正しい手続きと証拠収集を行うため、早期の弁護士相談が重要。
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