2026/03/11 学校事故
肖像権侵害とは?無断で写真をネットに載せられた場合の対処法
はじめに
今回は、SNSやインターネット掲示板の普及に伴い、近年ご相談が急増している「肖像権侵害」をテーマに解説します。
「自分の写真が勝手にX(旧Twitter)やInstagramにアップされている」
「街中で撮影された動画に自分が写り込んでおり、YouTubeで公開されている」
「元交際相手が、過去の写真をリベンジポルノとして掲示板に晒した」
こうしたトラブルは、誰の身にも起こり得ることです。ご自身のプライバシーが侵害されたと感じたとき、法的にどのような権利主張ができるのか、また具体的にどのような手順で削除や損害賠償を請求すればよいのか。
本記事では、肖像権侵害の判断基準から、被害に遭った際の初期対応、弁護士による救済手続きまでを解説いたします。
解説
1. そもそも「肖像権」とは何か
「肖像権」という言葉はよく耳にしますが、実は六法全書の条文に「肖像権」という明文の規定があるわけではありません。しかし、日本国憲法第13条(個人の尊重・幸福追求権)を根拠として、判例上認められている法的権利です。
肖像権は、大きく以下の2つの権利に分類されます。
(1) プライバシー権としての肖像権(人格権)
一般私人に認められる、「容貌や姿態を、みだりに撮影されたり、公表されたりしない権利」です。
通常、インターネット上のトラブルで問題になるのはこちらの権利です。たとえ何気ない日常の写真であっても、本人の承諾なく撮影・公開されることは、平穏な私生活を脅かす行為となり得ます。
(2) パブリシティ権(財産権)
芸能人やスポーツ選手など、その肖像(顔や姿)自体に「顧客吸引力」という経済的価値がある場合に認められる権利です。
例えば、有名人の写真を勝手に使って商品を宣伝・販売した場合などがこれに該当します。一般の方のケースでは、通常こちらの権利は問題になりません。
2. どこからが違法?肖像権侵害の判断基準
「他人の写真をアップロードしたら、すべて肖像権侵害になるのか?」というと、必ずしもそうではありません。
裁判実務において、肖像権侵害(不法行為)が成立するかどうかは、「撮影・公表された側の不利益」と「撮影・公表する側の目的や必要性」を比較衡量し、社会生活上受忍すべき限度(受忍限度)を超えているかどうかで判断されます。
具体的には、以下の要素を総合的に考慮します。
肖像権侵害を判断する4つのチェックポイント
- 本人が特定できるか(特定可能性)
- 顔がはっきりと写っている場合は、特定可能性が高いと言えます。
- モザイクやぼかし加工が施されている、あるいは遠景で米粒のような大きさである場合、個人の特定が難しいため、侵害とは認められにくい傾向にあります。
- ただし、顔が隠れていても、服装、持ち物、背景、付随する文章などから「この人は〇〇さんだ」と周囲が特定できる場合は、侵害が認められる可能性があります。
- 撮影・公開された場所はどこか
- 自宅内や更衣室、トイレなど、プライベートな空間で撮影されたものが公開された場合、侵害の程度は極めて高いと判断されます。
- 一方で、公道や公園、イベント会場など「公共の場所」で撮影された場合、ある程度の写り込みは受忍限度内とされることもあります。しかし、公共の場所であっても、特定の個人を執拗に追尾して撮影したり、容貌をアップで撮影したりする行為は違法となる可能性があります。
- 撮影・公表に承諾(同意)があったか
- 当然ながら、本人の許可があれば侵害にはなりません。
- 問題になりやすいのは、「撮影は許可したが、ネットへの公開は許可していない」ケースや、「友達限定の公開だと思っていたのに、全体公開された」ケースです。同意の範囲を超えた利用は、権利侵害となります。
- 拡散のされ方や内容(侮辱的・性的か)
- 単なる風景の一部として写り込んだ場合と比較して、その人を誹謗中傷するコメントと共に投稿されたり、性的な意図を持って公開されたりした場合は、違法性が強く認められます。
3. よくあるケーススタディ:これは肖像権侵害?
具体的な場面を想定して、侵害の可能性を検討してみましょう。
ケースA:背景への写り込み
- 状況: 観光地でYouTuberが自撮り動画を撮影しており、背景に通行人であるあなたが数秒間写り込んでいた。
- 判定:△(侵害の可能性は低い)
- 解説: 公共の場所で、あくまで「背景」として偶然写り込んだ程度であれば、受忍限度の範囲内とされることが多いです。ただし、あなたにピントが合っていたり、何をしているか明確にわかるレベルで長時間写っていたりする場合は、削除請求が認められる余地があります。
ケースB:SNSでの集合写真
- 状況: 飲み会で撮った集合写真を、友人が許可なくInstagramに「全体公開」でアップした。
- 判定:〇(侵害の可能性あり)
- 解説: 親しい間柄であっても、無断で全世界に向けて公開する行為は肖像権侵害になり得ます。ただし、撮影時に笑顔でポーズを取っていた場合、「黙示の承諾があった」と反論されるリスクもあります。トラブルを避けるには、公開前に「載せてもいい?」と確認することがマナーであり、法的リスク回避の鍵です。
ケースC:リベンジポルノ
- 状況: 交際中に撮影したプライベートな写真を、別れた後に元交際相手が掲示板に投稿した。
- 判定:◎(重大な侵害)
- 解説: これは明白な肖像権侵害であり、同時にプライバシー権侵害、名誉毀損にも該当します。「リベンジポルノ防止法」等の刑事罰の対象にもなり得る悪質な行為です。直ちに法的措置をとるべき事案です。
4. 被害に遭ったらまず何をすべきか?初期対応マニュアル
ご自身の写真が無断で公開されているのを見つけた場合、怒りや焦りで頭が真っ白になるかもしれません。しかし、冷静かつ迅速な対応が被害拡大を防ぎます。
手順1:証拠の保全
絶対にやってはいけないのは、証拠を残さずに投稿者に削除を迫ることです。
相手が投稿を削除してしまうと、その後「損害賠償請求」や「誰が投稿したかの特定」を行うための証拠が失われてしまいます。
必ず以下の情報を保存してください。
- スクリーンショット: 写真だけでなく、投稿日時、アカウント名、投稿のURL、前後の文脈がわかるように撮影します。スマホだけでなく、PC画面のPDF保存なども有効です。
- URL(リンク)の記録: スクリーンショットだけでは不十分な場合があります。該当する投稿の正確なURLをテキストとして控えてください。
手順2:サイト管理者・プロバイダへの削除請求
証拠を確保したら、被害拡大を防ぐために削除を求めます。
- SNSの通報機能: XやInstagram、YouTubeなどの主要プラットフォームには、「権利侵害」を理由とする通報フォームがあります。ここから肖像権侵害を申告します。
- 送信防止措置依頼: 掲示板サイトなどの管理者やサーバー管理者に対し、プロバイダ責任制限法に基づく「送信防止措置依頼書」を送付し、削除を求めます。
手順3:発信者情報開示請求(投稿者の特定)
相手が匿名で、誰かわからない場合や、損害賠償を請求したい場合は、投稿者を特定する必要があります。
これを「発信者情報開示請求」といいます。
- コンテンツプロバイダ(サイト管理者)への開示請求: IPアドレス等の情報を取得します。
- アクセスプロバイダ(通信会社)への開示請求: IPアドレスから判明した通信会社(docomo, SoftBank, OCN等)に対し、契約者情報の開示を求めます。
5. 損害賠償請求の範囲と相場
投稿者が特定できた場合、または相手が判明している場合、被った精神的苦痛に対して慰謝料を請求できます。
肖像権侵害の慰謝料相場
一般の方が肖像権侵害のみで訴えた場合、認められる慰謝料の相場は10万円〜50万円程度となる傾向があります。
「思ったより少ない」と感じられるかもしれませんが、日本の裁判実務において、純粋な肖像権侵害の慰謝料は比較的低額に留まるのが現状です。
増額されるケース
ただし、以下のような事情がある場合は、慰謝料が増額される可能性があります。
- ヌードや下着姿など、性的羞恥心を害する写真である場合: 100万円〜数百万円になることもあります。
- 名誉毀損を伴う場合: 写真とともに「不倫している」「犯罪者だ」などの嘘の事実が書かれている場合、名誉毀損としての慰謝料が加算されます。
- 住所や電話番号などの個人情報が晒されている場合: プライバシー侵害の度合いが大きいと判断されます。
- 拡散の規模が大きい場合: インフルエンサーによる拡散など、被害が甚大である場合。
その他の請求可能な費用
慰謝料以外にも、以下の費用を請求できる場合があります。
- 調査費用: 投稿者を特定するためにかかった弁護士費用の一部。
- 弁護士費用: 裁判にかかった弁護士費用の1割程度(判決で認められた場合)。
6. 刑事責任は問えるのか?
「勝手に写真を晒した相手を逮捕してほしい」というご相談も多くいただきます。
しかし、単なる「肖像権侵害」という罪名は刑法には存在しません。したがって、警察に相談しても「民事不介入」として対応してもらえないケースがあります。
ただし、投稿の内容や態様によっては、以下の犯罪が成立する可能性があります。
- 名誉毀損罪・侮辱罪: 写真と共に社会的評価を下げるような書き込みをした場合。
- リベンジポルノ防止法違反: 元交際相手などの私事性的画像記録を公表した場合。
- 児童ポルノ禁止法違反: 被写体が児童(18歳未満)で、性的な写真の場合。
- 迷惑防止条例違反: 公共の場所での盗撮や、卑わいな言動を伴うつきまとい等。
- 脅迫罪・強要罪: 写真をネタに「金を払わないとばら撒くぞ」などと脅した場合。
これらの犯罪構成要件に該当する場合は、警察への被害届や刑事告訴を検討することになります。
7. 弁護士に依頼するメリットとタイミング
肖像権侵害の被害に遭った際、ご自身で対応することも不可能ではありませんが、多くの法的・技術的ハードルが存在します。弁護士へ依頼することで、以下のようなメリットがあります。
(1) 迅速な削除と証拠保全
インターネット上の情報は拡散スピードが速く、一刻を争います。また、通信会社が保有するアクセスログ(投稿者の記録)は、通常3ヶ月〜6ヶ月程度で消去されてしまいます。弁護士は、必要に応じて裁判所の仮処分命令などを活用し、ログが消える前に情報の保全を行います。
(2) 適切な法的構成による主張
単に「嫌だから消して」と言うだけでは、サイト管理者が応じないことも多々あります。「どの権利が、どのような理由で侵害されているのか」を法的に構成し、説得力のある主張を行うことで、削除や開示の成功率が高まります。
(3) 相手方との交渉・精神的負担の軽減
投稿者との直接交渉は、新たなトラブルを招いたり、精神的に大きなストレスとなったりします。弁護士が代理人となることで、相手方と直接関わることなく、慰謝料請求や示談交渉を進めることができます。
まとめ
泣き寝入りせず、専門家にご相談を
インターネット上に一度流出した写真を完全に消し去ることは、「デジタルタトゥー」と呼ばれるように容易ではありません。しかし、迅速に行動を起こすことで、拡散を最小限に食い止め、加害者に適正な責任を負わせることは可能です。
肖像権侵害は、個人の尊厳に関わる重大な問題です。「たいした写真ではないから」「誰がやったかわからないから」と諦める前に、まずは専門家への相談をご検討ください。
当事務所では、インターネット上の権利侵害トラブルに関するご相談を数多くお受けしております。
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