学校事故

2026/02/28 学校事故

教員個人の責任は問えるのか?公立・私立での違いと損害賠償請求の相手方

はじめに

学校事故が発生した際、その原因が教員の明らかなミス(過失)にあったとしても、必ずしもその教員個人に対して損害賠償を請求できるわけではありません。

「自分の子どもを傷つけた先生が、なぜお咎めなしで、賠償金も払わないのか」

このような理不尽さを感じないためには、事前に法律の仕組み(誰が、どのような責任を負うのか)を正しく理解しておく必要があります。

特に公立学校の場合、法律の規定により、教員個人の責任追及には制限がかけられています。一方で、私立学校の場合は一般の民間企業と同様の扱いとなります。

この記事では、学校事故における「責任の所在」を明確にし、保護者の方が誰に対して、どのような請求を行うべきかを解説します。また、金銭的な賠償(民事責任)とは別の、「刑事責任」や「行政処分」についても触れていきます。

教員個人の責任に関するQ&A

解説に入る前に、教員個人の責任についてよくある疑問をQ&A形式でご紹介します。

Q1. 公立学校の先生が起こした事故で、先生個人を訴えることはできますか?

原則としてできません。

最高裁判所の判例により、公立学校の教員(公務員)が職務中に過失で他人に損害を与えた場合、その賠償責任は国や地方公共団体(自治体)が負い、公務員個人は被害者に対して直接の責任を負わないとされています。したがって、裁判の相手方は「先生」ではなく「市」や「県」になります。

Q2. 私立学校の場合はどうですか?

私立学校の教員個人を訴えることは可能です。

私立学校の教員は公務員ではないため、民法の原則通り、不法行為を行った本人として責任を負います。ただし、実際に賠償金を支払う能力(資力)の問題があるため、通常は雇用主である「学校法人」も含めて訴えるのが一般的です。

Q3. 先生個人にお金がない場合、泣き寝入りになるのでしょうか?

いいえ、そうではありません。

公立学校の場合は自治体(市町村や都道府県)が、私立学校の場合は学校法人が、教員に代わって(あるいは教員と共に)賠償金を支払います。教員個人に支払い能力がなくても、組織として十分な資力や保険があるため、被害者が適正な賠償を受けられないという事態は防げる仕組みになっています。 

解説

教員個人の責任をめぐる法的構造

ここからは、なぜ公立と私立で扱いが違うのか、そして教員個人に責任を問える例外はないのかについて解説します。

1. 公立学校:教員個人の責任は「免除」される

公立学校の教員は「地方公務員」です。公務員が職務(授業や部活動など)を行う際に起こした事故については、「国家賠償法」という特別な法律が適用されます。

国家賠償法第1条に基づく責任

国家賠償法は、「公務員が過失によって他人に損害を与えたときは、国または公共団体が賠償する」と定めています。

これについて最高裁判所は、「国や公共団体が責任を負う場合、公務員個人は責任を負わない」という判断を下しています(昭和30419日判決など)。

この理屈には、主に2つの理由があります。

  1. 被害者救済の確実性: 個人資産に限りのある公務員個人よりも、財政基盤のある国や自治体が賠償する方が、被害者にとって確実に賠償金を受け取れる。
  2. 公務の萎縮防止: 「少しでもミスをしたら個人で巨額の賠償を負わされる」となると、公務員が恐れをなして職務(教育活動など)に消極的になってしまうのを防ぐ。

このため、公立学校での事故において、保護者が「担任の先生」を被告として訴訟を起こしても、裁判所は「請求の相手が間違っている(被告適格がない)」として、門前払い(棄却)することになります。

例外:教員に「故意または重大な過失」がある場合

「それなら、公立の先生は何をしても許されるのか」と思われるかもしれませんが、内部的な責任追及の仕組みはあります。

国家賠償法第1条第2項では、公務員に「故意(わざと)」または「重大な過失(著しい不注意)」があった場合には、自治体が賠償金を支払った後、その自治体が教員個人に対して「求償(きゅうしょう)」を行うことができると定めています。

  • 求償とは: 「あなたのせいで市が賠償金を払うことになったのだから、その分を市に返してください」と請求することです。

ただし、これはあくまで「自治体と教員の間」のお金の話であり、被害者(保護者)が直接教員に請求できる権利が生まれるわけではありません。被害者が受け取る賠償金の出所は、あくまで自治体です。

2. 私立学校:教員個人も法的責任を負う

私立学校の教員は、民間企業の従業員と同じ扱いになります。そのため、民法の原則が適用され、個人の責任免除という特例はありません。

不法行為責任(民法第709条)

事故を起こした教員本人は、自らの過失によって他人の権利を侵害したとして、損害賠償責任を負います。

したがって、私立学校での事故であれば、保護者は「学校法人」だけでなく、「教員個人」を被告として訴訟を起こすことができます。

実際の請求の相手方

法律上は教員個人を訴えることが可能ですが、実務上は「学校法人」と「教員個人」の両方、あるいはいずれか一方を相手に選びます。

多くのケースでは、以下の理由から学校法人を主たるターゲットにします。

  • 資力の問題: 数千万円〜数億円になりうる賠償金を、教員個人の給与や貯蓄だけで支払うのは困難な場合が多い。
  • 使用者責任(民法第715条): 学校法人は教員を雇って利益を得ている以上、教員のミスについても責任を負うべきという考え方。

ただし、「どうしても先生個人に謝罪させたい」「個人の責任をうやむやにしたくない」という強い意向がある場合は、戦略的に教員個人を共同被告として訴えることもあります。

3. 「民事責任」以外の責任(刑事・行政・道義的責任)

ここまでは「お金の支払い(損害賠償)」に関する「民事責任」の話をしてきました。

しかし、責任には他にも種類があります。たとえ公立学校の教員であっても、以下の責任からは逃れられません。

刑事責任(犯罪としての責任)

事故の結果、生徒が死亡したり大怪我をしたりした場合、教員は「業務上過失致死傷罪」(刑法第211条)に問われる可能性があります。

これは、警察や検察が捜査し、裁判所が刑罰(拘禁刑、罰金)を科すものです。公立・私立に関係なく、教員個人が処罰されます。自治体が刑務所に入ることはできません。

行政責任(処分としての責任)

教育委員会(公立の場合)や学校法人(私立の場合)から受ける懲戒処分です。

免職、停職、減給、戒告などがあり、教員のキャリアに直接影響します。事故の原因が教員の重大な過失や職務怠慢にある場合、これらの処分が下されることになります。

道義的責任(人としての責任)

法的な義務とは別に、怪我をさせた生徒や保護者に対して誠実に謝罪し、見舞いを行うといった道義的な責任です。

「法律上、個人賠償の義務はない」からといって、謝罪すらしないという態度は、保護者の感情を逆なでし、紛争を激化させる大きな要因となります。

弁護士に相談するメリット

教員個人の責任追及については、感情的な納得感と法的な実現可能性のバランスをとることが非常に難しくなります。弁護士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。

1. 相手方(被告)を正しく選定し、無駄な失敗を防ぐ

「公立学校の先生個人を訴えてしまい、裁判で負けてしまった」という事態は避けなければなりません。

弁護士は、学校の設置主体(公立か私立か、公立なら市か県か)を正確に調査し、適切な相手方に対して請求を行います。これにより、手続きのミスによる時間のロスや費用の無駄を防ぎます。

2. 「教員個人への請求」に代わる解決策の提案

公立学校の場合、教員個人に金銭請求はできませんが、示談交渉の中で「教員本人からの謝罪文の交付」や「事故当時の状況についての詳細な説明」を条件として盛り込むことは可能です。

弁護士は、金銭的な賠償だけでなく、保護者の方の「先生に反省してほしい」という気持ちをどのような形で解決に反映させるか、現実的な落とし所を提案・交渉します。

3. 学校側との感情的な摩擦を緩和する

当事者同士(保護者と教員)で話をすると、どうしても感情がぶつかり合い、「言った言わない」のトラブルになりがちです。

弁護士が代理人として間に入ることで、冷静な議論が可能になります。また、学校側(特に管理職や教育委員会)に対しても、法的な根拠に基づいて毅然とした態度で責任を追及できるため、不誠実な対応を許しません。

4. 刑事告訴の検討とサポート

教員の過失が悪質であるにもかかわらず、学校側が事実を隠蔽しようとする場合などは、警察への刑事告訴(業務上過失致傷罪など)を検討することも一つの手段です。

弁護士は、告訴状の作成や警察への提出同行など、刑事責任の追及についてもサポートを行うことができます。

まとめ

学校事故において、「教員個人の責任」をどう問うかは、公立と私立で大きく異なります。

  • 公立学校の場合:
    • 民事責任(賠償金): 教員個人には請求できません(国家賠償法の免責)。請求相手は「自治体」です。
    • ただし、刑事責任(処罰)や行政責任(懲戒処分)は教員個人が負います。
  • 私立学校の場合:
    • 民事責任(賠償金): 教員個人にも請求できます(民法の不法行為)。
    • ただし、支払い能力の観点から「学校法人」を相手にすることが一般的です。

保護者の方にとって、「先生個人を許せない」という気持ちは痛いほど理解できます。しかし、法的な賠償請求においては、「誰が最も確実に賠償金を支払えるか」という視点が重要になります。公立学校のシステムは、ある意味で「先生個人の財布」に依存せず、公的な資金で確実に被害者を救済するための仕組みとも言えます。

もし、学校側の説明に納得がいかない、あるいは教員の態度が許せず、何らかの形で責任を取らせたいとお考えの場合は、早めに弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。

法的にお金(賠償)を請求する相手と、謝罪や反省を求める相手を整理し、被害に遭われたお子様とご家族にとって、最も納得のいく解決を目指してサポートいたします。

本記事のポイント

  • 公立学校の教員個人に対する損害賠償請求は、法律上認められていない(国家賠償法)。
  • 私立学校の教員個人には、損害賠償請求が可能である(民法)。
  • 賠償金の支払い義務者が誰であれ(自治体や学校法人)、被害者が受け取る金額の基準は変わらない。
  • 「民事責任」が問えなくても、「刑事責任」や「行政処分」で教員個人の責任が問われることはある。

一人で抱え込まず、まずは専門家の意見を聞いてみてください。当事務所は、学校事故被害者の味方として、親身になって対応いたします。


 

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