コラム

2026/06/28 コラム

立ち退き料の相場はいくら?大家の都合で退去を求められた場合の交渉術

はじめに

長年住み慣れたアパートやマンション、あるいは順調に営業を続けてきた店舗。ある日突然、大家(貸主)から「建物を建て替えるから、半年後に退去してほしい」と通知されたら、誰でも大きな不安と戸惑いを感じるはずです。

急な引越しには、新居の敷金・礼金、引越し業者の費用など、多額の出費が伴います。また、新しい生活環境への適応や、店舗であれば移転による顧客離れといった無形の負担も生じます。このような大家側の都合による一方的な退去要求に対して、借主は無条件で従わなければならないのでしょうか。

結論から言えば、借主に家賃滞納などの契約違反がない限り、大家の都合だけで簡単に退去させることは法律上認められていません。退去に応じる場合でも、引越しにかかる費用や不利益を補うための「立ち退き料」を受け取れる可能性が高いと言えます。

本記事では、立ち退き料が支払われる法的な仕組み、住居・店舗それぞれの相場、そして不当な条件で追い出されないための正しい対処法と交渉術について解説します。

解説

1. そもそも立ち退き料とは?支払われる法的根拠

「立ち退き料」という言葉はよく耳にしますが、実は民法や借地借家法といった法律に「立ち退き料を支払わなければならない」という直接的な条文があるわけではありません。では、なぜ立ち退き料の支払いが法的に認められているのでしょうか。

「正当事由」を補完するための解決金

建物の賃貸借契約において、借主の権利は「借地借家法」という法律によって非常に強く保護されています。大家側から賃貸借契約の更新を拒絶したり、契約の解除(解約申し入れ)を行ったりするためには、法律上「正当事由(せいとうじゆう)」が必要であると定められています(借地借家法第28条)。

正当事由とは、「どうしても借主に退去してもらわなければならない、客観的で妥当な理由」のことです。例えば「建物が老朽化して倒壊の危険がある」「大家自身がどうしてもその建物に住む必要がある」といった事情が考慮されます。

しかし、実際の裁判において、大家側の事情だけで100%の正当事由が認められるケースは極めて稀です。「老朽化しているが、修繕すればまだ住める」「大家には他に住む家がある」といったように、正当事由としては不十分(正当事由が弱い)と判断されることがほとんどです。

この「不足している正当事由を補って、退去を正当化するために大家が借主に支払う金銭」こそが、立ち退き料の法的な位置づけです。つまり、立ち退き料は大家の「お願い」に対する迷惑料や手切れ金であると同時に、法的には退去を成立させるための重要なピース(財産上の給付)なのです。

立ち退き料が支払われないケース

一方で、以下のような場合には、立ち退き料を請求することはできません。

  • 借主に契約違反がある場合:長期間の家賃滞納、無断転貸(また貸し)、ペット不可の物件での飼育など、借主側の重大なルール違反によって契約を解除される場合は、大家に正当事由があるため立ち退き料は発生しません。
  • 定期建物賃貸借契約(定期借家契約)の場合:「契約期間は2年で、更新はしない」という定期借家契約を結んでおり、その期間が満了して退去する場合は、原則として立ち退き料は請求できません。

2. 【住居・店舗別】立ち退き料の相場と内訳

立ち退き料には法律で定められた計算式はなく、「いくらが正解」という明確な基準が存在しません。金額は、物件の用途(住居か店舗か)や、双方の事情によって大きく変動します。ここでは一般的な相場と、金額を構成する内訳について解説します。

居住用物件(アパート・マンション)の相場

一般的に、住居の立ち退き料の相場は「現在の家賃の6ヶ月分〜1年分程度(数十万円〜100万円前後)」に落ち着く傾向にあります。

これは、新しい住居へ移るために実際に必要となる費用(実費)をベースに計算されるためです。

【居住用物件の立ち退き料の内訳】

  • 引越し費用:引越し業者への実費、不用品の処分費用など。
  • 新居の初期費用:新しく契約する物件の敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、火災保険料、鍵交換代など。
  • 家賃の差額:これまでと同じ条件の物件を探すと家賃が高くなってしまう場合、その差額の12年分程度が上乗せされることがあります。
  • 慰謝料(迷惑料):急な引越しを余儀なくされたことによる精神的苦痛や手間に対する補償。インターネットの移転手続き費用などが含まれることもあります。

事業用物件(店舗・オフィス)の相場

店舗やオフィスの立ち退き料は、住居に比べてはるかに高額になる傾向があり、数百万円から、規模によっては数千万円、億単位になることも珍しくありません。

事業用物件の場合、単なる引越し費用だけでなく、「移転によって失われる利益」を補償しなければならないからです。

【事業用物件の立ち退き料の内訳】

  • 移転実費:什器備品、大型機材の移転費用、新店舗での内装工事費(造作費用)、看板の設置費用など。
  • 営業補償(休業補償):移転作業のために休業しなければならない期間の利益(売上から経費を引いた額)と、従業員の給与などの固定費。
  • 移転に伴う利益減少の補償(得意先喪失補償):飲食店や美容室などの地域密着型のビジネスでは、移転によって常連客が離れてしまうリスクがあります。移転後、元の売上水準に回復するまでの期間(例えば12年分)の減益分を補償します。
  • 借家権価格:その場所で長年営業を続けてきたことによる権利そのものの価値を金銭換算して上乗せするケースもあります。

3. 立ち退き料の金額を左右する「正当事由の強弱」

前述の通り、立ち退き料は「不足している正当事由を補うもの」です。したがって、立ち退き料が高くなるか低くなるかは、「大家側が退去を求める理由の切実さ」と「借主側がそこに留まりたい理由の切実さ」のバランス(正当事由の強弱)によって決まります。

大家側の事情が強い場合(立ち退き料は下がる傾向)

  • 建物が築数十年経過しており、耐震基準を満たさず倒壊の危険性が極めて高い。
  • 大規模な雨漏りなどがあり、修繕費用が建物の価値を上回るほど高額になる。
  • 大家自身が経済的に困窮し、その建物を売却・あるいは自ら住む以外に生活手段がない。

このような場合は大家側の正当事由が強いと判断され、立ち退き料は相場よりも低く抑えられる、あるいは最低限の引越し代のみとなる可能性があります。

借主側の事情が強い場合(立ち退き料は上がる傾向)

  • 借主が高齢や障害を抱えており、新たな引越し先を見つけることが極めて困難である。
  • 子供の転校を避けたいなど、その地域に住み続けなければならない強い理由がある。
  • 店舗の場合、その場所だからこそ成り立つビジネスモデルであり、移転すれば廃業の危機に直面する。

大家の理由が「もっと高い家賃を取れるマンションに建て替えたいから」といった単なる利益追求目的であり、かつ借主側に上記のような深刻な事情がある場合は、正当事由が非常に弱いとみなされ、立ち退き料は高額になる傾向があります。

4. 大家から退去を求められた場合の正しい対処法と交渉術

ある日突然、管理会社や大家から「立ち退きの合意書」を持参された場合、どのように対応すべきでしょうか。借主が不利にならないための交渉術を解説します。

その場ですぐに合意・署名・押印をしない

最もやってはいけないのが、大家や管理会社の勢いに押されて、その場で「退去合意書」にサインをしてしまうことです。

「今サインしてくれれば、引越し代として10万円出します」「これを逃すと1円も出なくなりますよ」などと急かされることがありますが、一度サインをしてしまうと、後から「立ち退き料が少なすぎる」と覆すことは法的に非常に困難になります。まずは「書面を預かり、家族(または弁護士)と相談してから回答します」と伝え、即答を避けましょう。

退去理由(正当事由)を書面で確認する

大家がなぜ退去を求めているのか、その理由を口頭ではなく「書面(内容証明郵便など)」で提示してもらうよう求めます。

「老朽化のため」と言われたら、「具体的にどの部分が危険で、専門家の耐震診断等は受けているのか」など、客観的な資料を求めることも重要です。相手の理由の弱さを突くことが、その後の交渉を有利に進めるポイントになります。

かかる費用(損害)を細かくリストアップして提示する

大家から「立ち退き料として〇〇万円支払う」と提示された金額が、実際の引越し費用に見合っていない場合は、具体的な根拠を示して反論します。

引越し業者の見積もり、希望する新居の初期費用の見積もり、その他インターネットの移転工事費など、考えられる出費をすべてリストアップし、「最低でもこれだけの金額がかかるため、提示額では退去できない」と論理的に交渉します。

交渉中も「家賃」は絶対に支払い続ける

立ち退きをめぐって大家とトラブルになり、「こんな大家にはもう家賃を払いたくない」「退去するのだから家賃は相殺して払わなくていいだろう」と自己判断で家賃の支払いを止めてしまう方がいますが、これは絶対に避けてください。

家賃を滞納してしまうと、それを理由に「借主の債務不履行による契約解除」を主張され、立ち退き料を1円も受け取れずに強制退去させられるリスクがあります。大家が家賃の受け取りを拒否した場合は、法務局の「供託(きょうたく)」制度を利用して、法的に支払った状態を維持する必要があります。

交渉がまとまらない場合はどうなる?

双方が提示する金額に折り合いがつかず、話し合いが平行線になってしまった場合は、最終的に法的手段に移行することになります。

  • 民事調停:裁判所の調停委員を交えて話し合いを行います。
  • 建物明渡請求訴訟(裁判):大家側が借主に対して、建物を明け渡すよう求める裁判を起こします。

裁判になった場合、裁判官は双方の事情(正当事由)を比較衡量し、「大家の請求を棄却する(借主は住み続けられる)」「万円の立ち退き料の支払いと引き換えに明け渡しを命じる」といった判決を下します。

裁判所の判断は過去の判例等の厳格な基準に基づくため、大家から過剰に高額な金銭を引き出すことは難しくなりますが、逆に大家の身勝手な理由での無償の追い出しを阻止することができます。

立ち退きトラブルを弁護士に相談するメリット

立ち退き交渉は、借地借家法という専門的な法律知識が必要不可欠であり、一般の方がプロである不動産会社や大家側の弁護士を相手に対等に交渉するのは極めて困難です。

「立ち退き料の提示額に納得がいかない」「強引に追い出されそうで不安だ」という場合は、早期に弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。弁護士が介入することで、以下のような大きなメリットがあります。

  • 適正な立ち退き料の算定と交渉:弁護士が過去の裁判例や類似ケースに基づき、客観的で妥当な立ち退き料を算定します。弁護士が論理的に交渉することで、大家側からの提示額が大幅に増額するケースは多々あります。
  • 不当な圧力からの保護:大家や管理会社からの度重なる訪問や電話によるプレッシャーは、精神的に大きな負担となります。弁護士にご依頼いただいた後は、弁護士がすべての交渉窓口となるため、依頼者は直接相手とやり取りをする必要がなくなり、平穏な日常生活を取り戻すことができます。
  • 事業の損失を最小限に抑える(店舗の場合):特に事業用物件の立ち退きでは、営業補償の算定が非常に複雑です。財務資料を的確に分析し、適正な補償額を引き出すためには、弁護士の専門的なサポートが不可欠です。
  • 裁判を見据えた戦略的な対応:交渉が決裂して訴訟に発展した場合でも、建物の老朽化に関する反証や、借主の必要性の主張など、一貫して強力な法的サポートを提供します。

まとめ

大家からの立ち退き要求は、突然の生活の脅威です。しかし、借地借家法のもとでは、借主の権利は手厚く保護されており、正当な理由なき退去には応じる必要はありません。退去に合意する場合でも、引越し費用や移転による損害を補填するための「立ち退き料」を適正に請求する権利があります。

「提示された条件が妥当かどうかわからない」「立ち退きを迫られて困っている」という方は、決してその場で合意書にサインをせず、まずは弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。不動産トラブルの解決実績が豊富な弁護士が、あなたの生活や事業を守るため、最適な交渉戦略をご提案いたします。

 


 

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