2026/08/07 コラム
遺留分とは?計算方法から侵害額請求の流れ、時効までを弁護士がわかりやすく解説
はじめに
「父が亡くなり、遺言書を開いてみたら、全ての財産を長男に相続させると書かれていた」
「亡くなった夫が、愛人に全財産を遺贈するとの遺言を残していた」
被相続人(亡くなった方)が遺した遺言書は、故人の最終的な意思として、原則として最大限尊重されるべきものです。しかし、上記のような遺言書によって、本来であれば財産を受け取れるはずだったご家族が、生活の基盤を失ってしまうような事態は、残されたご家族にとって大きな負担となります。
そこで日本の民法は、遺言の自由を尊重しつつも、残されたご家族の生活を保障するため、一定の相続人が最低限の遺産を取得できる権利を定めています。これが「遺留分(いりゅうぶん)」です。
遺留分は、遺言によってご自身の相続分がゼロ、または極端に少なくなってしまった相続人のための、いわば「最後の砦」となる重要な権利です。
この記事では、遺留分とはどのような制度なのか、誰に、どのくらいの権利が認められているのか、そして、ご自身の遺留分を確保するための具体的な手続きである「遺留分侵害額請求」について、2019年7月の民法改正の内容も踏まえながら、詳しく解説していきます。
遺留分とは?その基本を理解する
(1) 遺留分の定義
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に対して、法律上、最低限の取得が保障されている遺産の割合をいいます。
たとえ遺言書に「全財産を〇〇に相続させる」と書かれていても、遺留分を持つ相続人は、財産を多く受け取った人に対して、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを請求することができます。
(2) 遺留分を持つ人(遺留分権利者)
遺留分が認められているのは、被相続人と近しい関係にある以下の相続人です。
- 配偶者
- 子(子が既に亡くなっている場合は、孫などの代襲相続人)
- 直系尊属(父母、祖父母など)
最重要ポイント
被相続人の兄弟姉妹(およびその代襲相続人である甥・姪)には、遺留分はありません。 したがって、遺言で兄弟姉妹に財産が渡らなかったとしても、遺留分を請求することはできません。
(3) 遺留分の割合
遺留分として保障される割合は、遺産全体に対して、以下の通り定められています。
|
相続人の組み合わせ |
遺産全体に対する遺留分割合(総体的遺留分) |
|
直系尊属(父母など)のみが相続人の場合 |
3分の1 |
|
上記以外の場合(配偶者のみ、子のみ、配偶者と子、配偶者と直系尊属) |
2分の1 |
そして、各相続人の具体的な遺留分(個別的遺留分)は、この「総体的遺留分」に、各自の「法定相続分」を掛け合わせて算出します。
具体例:相続人が配偶者と子2人の場合
- 総体的遺留分:1/2
- 配偶者の法定相続分:1/2
- 子の法定相続分:1/2(2人で分けるので、一人あたり1/4)
- 配偶者の遺留分:1/2 × 1/2 = 1/4
- 子一人の遺留分:1/2 × 1/4 = 1/8
【具体例でわかる】遺留分の計算方法
では、実際に請求できる遺留分侵害額は、どのように計算するのでしょうか。以下の2ステップで計算します。
Step1:遺留分を計算するための「基礎となる財産」を算出する
まず、遺留分算定の元となる財産の総額を確定させます。これは、単純な相続開始時の遺産額とは異なります。
【計算式】
相続開始時の積極財産 + 生前に贈与された財産の価額 - 相続債務
- 積極財産: 預貯金、不動産、株式などプラスの遺産。
- 相続債務: 借金、未払金などマイナスの遺産。
- 生前に贈与された財産の価額: これが計算を複雑にするポイントです。生前の不公平な贈与も考慮に入れるため、以下の贈与を遺産に持ち戻して計算します。
- 相続人に対する贈与(特別受益): 原則として、相続開始前の10年以内に行われたものが対象です。
- 相続人以外に対する贈与: 原則として、相続開始前の1年以内に行われたものが対象です。
- 当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って行った贈与: 上記の期間制限にかかわらず、加算の対象となり得ます。
Step2:「遺留分侵害額」を計算する
基礎となる財産額が確定したら、ご自身の遺留分侵害額を計算します。
計算式:
(基礎となる財産 × あなたの個別的遺留分割合) - (あなたが特別受益として受けた贈与の額) - (あなたが遺言や死因贈与によって取得した財産の額) + (あなたが負担する相続債務の額)
シミュレーション
- 被相続人:父(遺産6,000万円)
- 相続人:母、長男、次男
- 遺言内容:「全財産を母と長男に半分ずつ相続させる」(次男の相続分はゼロ)
- 生前贈与:長男は10年以内に父から2,000万円の贈与を受けていた。
-
- 基礎となる財産: 6,000万円(遺産)+ 2,000万円(長男への贈与)= 8,000万円
- 次男の遺留分割合: 1/2(総体的遺留分)× 1/4(法定相続分)= 1/8
- 次男の遺留分額: 8,000万円 × 1/8 = 1,000万円
- 次男の遺留分侵害額: 1,000万円(遺留分額)- 0円(次男が受けた遺産・贈与)= 1,000万円
⇒ この場合、次男は、母と長男に対して、合計1,000万円の金銭を支払うよう請求できます。
遺留分を取り戻す「遺留分侵害額請求」の流れ
民法改正による大きな変更点
2019年7月の民法改正により、従来の「遺留分減殺請求」は「遺留分侵害額請求」に変わりました。
- 旧制度(減殺請求): 遺産そのもの(不動産など)の返還を求める権利でした。これにより、不動産が共有状態になるなど、かえって紛争が複雑化する問題がありました。
- 新制度(侵害額請求): 侵害された遺留分額に相当する「金銭」の支払いを求める権利に一本化されました。これにより、金銭で解決できるため、紛争の早期かつ柔軟な解決が期待できます。
手続きの具体的な流れ
Step1:内容証明郵便による意思表示
まずは、財産を多く受け取った相手方に対し、配達証明付きの内容証明郵便で「遺留分侵害額請求権を行使します」という意思表示を明確に通知します。これは、後述する1年の期間内に権利を行使したことを証拠化するために、非常に重要な手続きです。
Step2:当事者間での話し合い(交渉)
請求の意思表示をした上で、支払うべき金額や支払い方法について、当事者間で交渉します。
Step3:家庭裁判所での調停
話し合いで合意に至らない場合は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所等に、遺留分侵害額の請求調停を申し立てます。調停委員を交えて、話し合いによる解決を目指します。
Step4:地方裁判所での訴訟
調停でも話がまとまらない場合は、地方裁判所に「遺留分侵害額請求訴訟」を提起し、裁判所の法的な判断を求めることになります。
【要注意!】遺留分侵害額請求の短い時効
遺留分を請求する権利は、永久に認められるわけではありません。非常に短い時効が定められているため、注意が必要です。
- 時効期間:相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間
- 10年の期間制限:上記の事実を知らなくても、相続開始の時から10年を経過したときは、請求できなくなります。
「知った時から1年」という期間はあっという間に過ぎてしまいます。ご自身の遺留分が侵害されている可能性を知ったら、ためらわずに、すぐに行動を起こすことが何よりも重要です。
まとめ
遺留分は、法律で認められた相続人の正当な権利です。しかし、その権利を実現するためには、複雑な財産評価や法律計算、そして「1年」という非常に短い時効期間というハードルを越えなければなりません。
遺言書の内容に納得がいかず、ご自身の遺留分が侵害されていると感じたら、一日も早く、相続問題に強い弁護士にご相談ください。弁護士に依頼すれば、正確な遺留分額の計算から、相手方との交渉、法的手続きまでを一任でき、感情的な対立を避けながら、あなたの正当な権利の実現を目指すことができます。
【弁護士法人長瀬総合法律事務所のYouTubeチャンネル 】
企業法務に関する問題を解説したYoutubeチャンネルを運営しています。
ぜひご視聴・ご登録ください。
【メールマガジンのご案内】
無料WEBセミナー開催のお知らせや、事務所からのお知らせをメールで配信しています。
ぜひこちらのご登録もご検討ください。

