2025/01/31 介護事故
介護施設での転倒事故と損害賠償:安全管理の落とし穴と防止策のポイント
はじめに
高齢者や要介護者が生活する介護施設では、転倒事故が発生しやすい環境にあります。フラットではない床面、手すりの未設置、適切な介助がないままの移動など、さまざまな要因が重なることで、転倒から骨折などの大きなケガにつながりやすいのです。さらに、転倒が原因で要介護度が進行したり、長期入院につながってしまうケースも少なくありません。
こうした「介護施設内での転倒事故」は、介護スタッフや施設側がどの程度注意義務を果たしていたかが争点となり得ます。本稿では、転倒事故にまつわる法的責任の考え方や、事故が起きた際の具体的な手続き・対応策についてわかりやすく解説します。施設と利用者双方にとって安全で安心な介護環境をつくるために、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
Q&A
介護施設で転倒事故が起きたら、すべて施設側の責任となるのでしょうか?
一概には言えません。施設側が利用者の身体状況や日常生活動作のレベルを把握していながら安全対策を怠っていた場合は、管理責任を問われやすいです。しかし、利用者本人の体調不良や突然の行動変化などが原因のケースでは、施設側に明確な過失が認められないこともあります。
どのような場合に、施設側の注意義務違反が認められやすいですか?
たとえば、居室や廊下、トイレなどに手すりや滑り止めマットが設置されていない、あるいは照明が暗くて足元が見えづらいといった状況を放置していた場合です。また、介助が必要な利用者を一人で移動させたり、スタッフの見守り配置が明らかに不十分だった場合も、過失が指摘されやすいです。
転倒事故で負ったケガによって要介護度が進行した場合、損害賠償の対象になりますか?
転倒事故と要介護度の進行との間に因果関係が認められる場合は、その分の医療費や介護費用、さらには慰謝料などが損害賠償の対象となる可能性があります。医学的な証明が必要となることも多いため、専門医の診断書や意見書を準備することが重要です。
家族として転倒事故のリスクを減らすためにできることはありますか?
入所前に施設の見学を行い、バリアフリー対策やスタッフの配置状況を確認することが大切です。また、入居後もスタッフと日々コミュニケーションをとり、利用者の身体機能の変化や転倒リスクについて情報共有することで、早めの対応が期待できます。
事故後、施設側との話し合いが難航している場合はどうすればいいですか?
感情的な対立を避けるためにも、専門家である弁護士に相談して交渉を代行してもらうとスムーズです。法律の観点から介護施設の注意義務違反や損害項目を整理して請求することで、適切な補償を得やすくなります。
解説
転倒事故における法的責任の根拠
介護施設が利用者の身体機能や認知機能などを考慮せず、安全配慮義務を怠った結果転倒事故が起きた場合、「不法行為責任」や「債務不履行責任」が認められる可能性があります。具体的には以下の要件が争点となります。
- 介護施設の義務違反(過失)の有無
- 手すりや安全マットなどの設置不足
- 夜間の見回りや見守り体制の不備
- 利用者個別のアセスメント不足
- 損害の発生
- 骨折や打撲などの治療費
- 入院費用や看護費用、リハビリ費用
- 要介護度進行による介護費用増加など
- 事故と損害の因果関係
- 施設の管理不備がなければ転倒は起こらなかったか
- 転倒の結果、症状が悪化したと医学的に立証できるか
事故後の手続きと注意点
- 医療機関の受診
怪我を負った場合は、速やかに医療機関で検査・治療を受け、診断書を取得します。治療経過やかかった費用は全て記録しておきましょう。 - 事故報告書の確認
施設側が作成する事故報告書や経過記録を確認し、疑問点や不明点は遠慮なく質問します。口頭だけでなく書面での回答を求めると後日の証拠として役立ちます。 - 示談交渉または裁判手続き
施設側と補償内容について話し合い、示談交渉で解決を目指します。合意に至らない場合や、施設側が過失を認めない場合は裁判に移行する選択肢もあります。
防止策:介護施設と家族ができること
- 利用者一人ひとりのリスクアセスメント
歩行状態や認知機能、既往症などを踏まえ、転倒リスクを定期的に評価し、ケアプランに反映させる。 - 物理的環境の整備
床の段差をなくす、手すりを適切な高さに設置する、必要に応じて車いすや歩行器を準備するなど、環境面での安全対策を行う。 - スタッフの教育・研修
介助方法やリスク管理について定期的な研修を行い、見守り・声かけの徹底を図る。 - 家族との情報共有
ご家族が日常の様子を把握できるよう、定期的に身体状態や転倒リスクを報告する仕組みを整える。
弁護士に相談するメリット
- 法的視点による過失の分析
介護施設にどの程度の責任があるかを、判例や専門的知見をもとに整理できます。 - 適切な損害賠償額の算定
治療費や入院費だけでなく、介護度進行による将来の介護費用や慰謝料など、漏れのない請求を目指せます。 - 示談交渉の代理
施設との直接交渉では、感情的な対立が生じたり、法的根拠を示しにくかったりします。弁護士を通じて交渉することで、冷静かつ客観的な合意形成が期待できます。 - 裁判手続きでのサポート
もし示談がまとまらなければ裁判に進むことになりますが、弁護士が裁判戦略の立案から書面作成、証拠の取りまとめまで担当しますので、依頼者の負担が大きく軽減されます。
まとめ
介護施設での転倒事故は、高齢者や要介護者にとって大きなダメージになるだけでなく、生活の質(QOL)を大きく下げる原因にもなりかねません。本来、介護施設は利用者にとって「安全と安心」を提供する場であるべきですから、転倒事故が起きた際には、施設側がどのような安全配慮を行っていたかをしっかり検証することが重要です。
もしも利用者や家族が施設の対応に納得できない場合は、弁護士法人長瀬総合法律事務所へご相談ください。豊富な経験と法的知識を生かし、適切な解決へ向けたサポートをさせていただきます。
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