学校事故

2026/05/15 学校事故

学校事故の賠償額が減る?「過失相殺」と生徒側の不注意について解説

はじめに

学校で起きた事故について、学校側と話し合いをしている最中に、「事故が起きたのは、お子さん自身の不注意も原因です」「お子さんがルールを守らなかったため、学校として全責任は負えません」といった言葉を投げかけられることがあります。

被害に遭い、怪我をして苦しんでいる子どもに対し、「悪いのはあなただ」と言わんばかりの主張をされることは、保護者の方にとって耐え難い苦痛であり、強い憤りを覚えることでしょう。しかし、法律の世界には「過失相殺(かしつそうさい)」という考え方があり、被害者側(生徒側)にも落ち度があったと認められる場合、その割合に応じて損害賠償額が減額される仕組みが存在します。

学校側(あるいは保険会社)はこの仕組みを利用して、賠償額を抑えようと主張してくるケースが少なくありません。重要なのは、その主張が法的に妥当なものなのか、それとも不当な責任逃れなのかを見極めることです。

本記事では、学校事故における「過失相殺」の仕組みと、生徒側の「不注意」がどのように評価されるのかについて解説します。

Q&A

まず、過失相殺に関して保護者の方からよく寄せられる疑問について、QA形式で解説します。

Q1. 学校側から「子どもにも落ち度があった」と言われました。賠償金は全くもらえないのでしょうか?

全くもらえなくなるわけではありませんが、受け取れる金額が減る可能性があります。

「過失相殺」とは、加害者(学校)だけでなく被害者(生徒)にも事故発生の原因(過失)がある場合、公平の観点から、その割合分を賠償額から差し引く制度です。

例えば、損害額が合計1000万円で、学校の過失が7割、生徒の過失が3割と判断された場合、賠償金は300万円(3割分)が差し引かれ、700万円となります。

「落ち度がある=責任ゼロ」になるわけではありません(ただし、生徒側の過失が100%と判断されれば、賠償請求は認められません)。

Q2. どのような行為が「生徒側の過失」として扱われるのですか?

校則違反や危険な遊び、教員の指示に従わなかった場合などが対象となります。

具体的には、「立ち入り禁止区域に入った」「廊下を全力疾走した」「遊具の禁止されている使い方をした」「先生の『やめなさい』という注意を無視した」といったケースです。

ただし、単に「不注意だった」というだけでなく、子どもの年齢や発達段階を考慮して判断されます。

Q3. まだ小学校1年生です。危険かどうか判断できない年齢でも「過失」を問われるのですか?

おおむね小学校低学年以下の場合、子ども自身の「過失」は問われない傾向にあります。

法律上、自分の行為の責任を理解できる能力(事理弁識能力)がない子どもには、過失相殺を適用できません。この境界線はおおむね小学校入学前後〜10歳程度とされています。

ただし、子ども自身の過失は問えなくても、保護者の監督責任(家庭でのしつけ不足など)を理由に、「被害者側の過失」として減額されるケースはあり得ます。

解説

ここからは、学校事故における過失相殺の法的な仕組みと、具体的な判断基準について解説します。

1. 過失相殺とは?(民法7222項)

過失相殺とは、損害賠償の計算において、被害者側にも過失(不注意や落ち度)があった場合に、裁判所がその割合を斟酌(しんしゃく)して賠償額を減額することができる制度です。

事故は、一方的な加害行為だけでなく、被害者の行動が誘因となって発生したり、被害が拡大したりすることも多いため、損害を公平に分担させるのが目的です。

計算式(イメージ)

総損害額(治療費+慰謝料+逸失利益など)× 1 - 被害者側の過失割合) = 請求できる賠償額

2. 生徒の「能力」と過失相殺

学校事故において特徴的なのは、被害者が「判断能力が未成熟な子ども」であるという点です。大人の交通事故と同じ基準で過失を問うことはできません。

(1) 事理弁識能力(じりべんしきのうりょく)

自分の行為の結果を理解し、判断できる能力のことです。判例上、この能力がない子どもには過失相殺は適用されません。

  • 幼児〜小学校低学年: 一般的に事理弁識能力がない、あるいは不十分とみなされ、子ども自身の過失による減額はされにくい傾向にあります。
  • 小学校高学年〜中学生・高校生: 基本的に事理弁識能力があるとみなされ、大人に近い基準で過失相殺の対象となります。

(2) 「被害者側の過失」という理論

子ども本人に能力がない場合でも、「親(監督義務者)の過失」を理由に減額されることがあります。これを「被害者側の過失」といいます。

例えば、幼児が交通量の多い道路に飛び出して事故に遭った場合、幼児本人の過失は問えませんが、「親が手を離していた」「日頃の交通安全指導が足りなかった」として、親の過失分が賠償額から差し引かれることがあります。

しかし、学校管理下(授業中など)の事故であれば、親の目は届かないため、親の過失を問うことは原則として困難であり、過失相殺自体が否定されることも多いです。

3. 過失相殺が認められやすい具体的なケース

裁判において、実際に生徒側の過失が認められ、賠償額が減額されやすいのは以下のようなケースです。

(1) 明確なルール違反・指示違反

  • 立入禁止場所への侵入: 「屋上立ち入り禁止」や「工事区域への侵入禁止」など、明確に禁止されている場所に侵入して事故に遭った場合。
  • 危険な遊具の使用: 「二人乗り禁止」「逆走禁止」などのルールを破って遊具を使用した場合。
  • 教員の制止を無視: 先生が具体的に「危ないからやめなさい」と注意した直後に、その行為を行って事故になった場合。

(2) 危険な遊び・無謀な行動

  • 窓枠や手すりへの座り込み: 転落の危険が高い場所に、ふざけて座ったり登ったりした場合。
  • 激しい悪ふざけ: 相手を挑発したり、プロレスごっこを仕掛けたりして、その反撃で怪我をした場合(喧嘩闘争など)。
  • 自転車通学中の違反: 信号無視や並進走行など、交通ルール違反があった場合。

(3) 中学生・高校生の部活動

年齢が上がるほど、「自己責任」の範囲は広がります。

特にスポーツ推薦などで入学しているハイレベルな部活動の場合、生徒自身も高度な技術やリスク管理能力を持っているとみなされ、自らの判断ミスによる事故については、過失相殺の割合が高くなる(あるいは学校の責任が否定される)ことがあります。

4. 学校側の「言いがかり」に注意

学校側や保険会社の担当者は、交渉のテクニックとして、あえて高めの過失割合を提示してくることがあります。

「お子さんがふざけていたと聞いています」「普通なら避けることができたはずです」など、事実とは異なる、あるいは誇張された主張がなされることも珍しくありません。

特に注意が必要なのは、「目撃証言の偏り」です。学校側が作成した事故報告書には、学校に都合の良い証言(「被害者が急に飛び出した」など)ばかりが採用されている可能性があります。

弁護士に相談するメリット

過失相殺の割合(過失割合)は、1割違うだけで賠償額が数百万〜数千万円変わることもある非常に重要な争点です。学校側の主張を鵜呑みにせず、弁護士に相談することには大きなメリットがあります。

1. 適正な過失割合を算定できる

弁護士は、過去の膨大な裁判例(判例)のデータベースを持っています。「似たような事故で、裁判所は何割の過失を認めたか」という客観的な基準をもとに、学校側の提示する割合が妥当かどうかを判断できます。不当に高い過失相殺を主張された場合、法的根拠を持って反論できます。

2. 「生徒の不注意」の反証ができる

学校側が「生徒の不注意」を主張する場合、その根拠となる事実関係を崩すことが重要です。

弁護士は、事故現場の調査、マニュアルの確認、第三者(同級生など)への聞き取りなどを通じて、「そもそも生徒への指導が不十分だったのではないか」「回避不可能な状況だったのではないか」といった点を立証し、過失割合を修正させます。

3. 事理弁識能力の争点を整理できる

被害者が小学生の場合、そもそも「過失相殺の適用対象になる年齢・能力なのか」という根本的な議論が必要です。子どもの発達心理や法的判断基準に精通した弁護士であれば、安易な過失相殺を許さず、子どもの権利を守る主張を展開できます。

まとめ

学校側から「お子さんにも過失があった」と言われても、すぐに諦めたり、その主張を認めたりする必要はありません。

過失相殺は、公平な損害分担のための制度ですが、判断能力の低い子どもに対して無制限に適用されるものではありません。また、学校側の安全配慮義務違反(指導不足や設備不備)が根本原因である場合、子どもの些細な不注意は相殺されないケースも多々あります。

「学校の言っている過失割合が高すぎる気がする」「子どものせいにされて納得がいかない」と感じたら、示談書にサインする前に、必ず弁護士法人長瀬総合法律事務所にご相談ください。

大切なお子様が負った傷に対し、法的に正当な賠償が受けられるようサポートいたします。


 

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