コラム

2026/08/18 コラム

その遺言書、無効かもしれません!遺言が無効になるケースと、無効を主張して相続分を取り戻す方法

はじめに

被相続人(亡くなった方)が遺した「遺言書」は、自己の財産を誰に、どのように承継させるかについての、遺言者の最終的な意思表示です。そのため、法律上、遺言は法定相続に優先し、最大限尊重されるのが原則です。

しかし、その遺言書が、法律で定められた厳格なルールを守っていなかったり、遺言者が正常な判断能力を欠いた状態で作成されていたりした場合には、法的に「無効」となることがあります。

「認知症だった父が、こんな遺言を書くはずがない」
「遺言書の日付が書かれていない。これは有効なのだろうか」
「兄に無理やり書かされたのではないか」

もし、あなたが発見された遺言書の内容や作成された状況に、このような強い疑問を抱いたのであれば、その遺言の有効性を争い、ご自身の本来の相続分を取り戻せる可能性があります。

この記事では、どのような場合に遺言が無効になるのか、その典型的なケースと、遺言の無効を法的に主張するための具体的な手続きについて解説します。

遺言が無効と判断される3つの主なケース

遺言書が無効になる原因は、大きく分けて以下の3つのパターンがあります。

① 法律で定められた形式に違反している(方式違反)

遺言は、後日の紛争を防ぐため、民法で非常に厳格な形式(要式)が定められています。この形式を守っていない遺言は、たとえ内容が明確であっても、それだけで無効となります。特に、ご自身で作成する「自筆証書遺言」は、この方式違反で無効となるケースが後を絶ちません。

自筆証書遺言が無効になる主な例

  • 全文が自筆でない: 全文がパソコンやワープロで作成されている、他人が代筆している。
  • 日付の記載がない、または不明確: 日付の記載が全くない、「〇年〇月吉日」のように日付が特定できない。
  • 氏名の自署がない
  • 押印がない: 認印でも構いませんが、押印は必須です。
  • 共同で作成されている: 夫婦などが1枚の紙に連名で作成した遺言(共同遺言)は禁止されており、無効です。
  • 財産目録の不備(2019年改正後の注意点):

2019年の民法改正で、財産目録はパソコンでの作成や、預金通帳のコピー・不動産登記事項証明書の添付が可能になりました。ただし、その全てのページに署名・押印をしなければ無効となります。

一方、公証役場で作成する「公正証書遺言」は、公証人が関与するため、自筆証書遺言に比べると方式違反が問題となる場面は多くありません。ただし、遺言能力など別の理由で有効性が争われることはあります。

② 遺言者に「遺言能力」がなかった

これは、遺言の有効性を争う場面で、特に争点となりやすいものです。

「遺言能力」とは、遺言の内容(誰に、どの財産を、どうするのか)を正しく理解し、その遺言によってどのような法的な結果が生じるのかを判断できる精神的な能力のことをいいます。

この遺言能力が、遺言作成当時に欠けていたと認められる場合、その遺言は無効となります。

特に問題となるのが「認知症」のケース

  • 「認知症と診断されていた=直ちに遺言能力なし」というわけではありません。認知症の程度や、遺言作成当日の状態などが個別に判断されます。
  • 立証のポイント:
    • 遺言作成当時の医療記録(カルテ)や、介護認定の記録。
    • 長谷川式認知症スケールやMMSEなどの認知機能検査の点数
    • 遺言者の生前の言動(担当医、看護師、介護士、親族などの証言)。
    • 遺言の内容が、単純か、複雑か
    • 遺言の内容が、生前の遺言者の意思と比べて、不自然ではないか

③ 遺言の内容自体に問題がある

  • 公序良俗違反(民法90条):遺言の内容が、社会の一般的な道徳観念や秩序に反する場合です。例えば、不倫関係の維持継続等を目的とするなど、内容・動機・経緯に照らして社会的妥当性を欠く遺言は、無効と判断される可能性があります。
  • 詐欺・強迫による遺言:特定の相続人などに騙されたり、脅されたりして、本意ではない内容の遺言を無理やり書かされた場合です。その事実を立証できれば、遺言を取り消すことができます。
  • 内容が不明確:「私の財産の一部を〇〇に遺す」といったように、どの財産を指すのか、あるいは誰に遺すのかが、客観的に特定できない場合、その部分は無効となることがあります。

    遺言の無効を主張するための法的手続きの流れ

    遺言書の有効性に疑問がある場合、以下のステップで手続きを進めていきます。

    Step1:相続人全員での話し合い(協議)

    まずは、他の相続人全員に対し、遺言が無効であると考える具体的な理由を説明し、遺言は存在しなかったものとして、「遺産分割協議」を行うことを提案します。ここで全員が合意できれば、最も円満に解決できます。

    Step2:家庭裁判所での「遺言無効確認調停」

    話し合いで合意に至らない場合は、相手方となる相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に「遺言無効確認調停」を申し立てます。これは、裁判官と調停委員を交えて、あくまで話し合いによる解決を目指す手続きです。

    Step3:地方裁判所での「遺言無効確認訴訟」

    調停でも合意できない、あるいは相手方が調停に出席しない場合の最終手段です。地方裁判所に「遺言無効確認訴訟」を提起し、裁判官に、遺言が有効か無効かの法的な判断を下してもらうことになります。

    遺言の無効を証明するために

    遺言無効確認訴訟では、無効を主張する側が、その無効原因を客観的な証拠に基づいて証明する責任を負います(立証責任)。

    特に、遺言能力の欠如を証明するためには、前述した医療記録や介護記録、専門家である医師の意見書(鑑定)などが極めて重要になります。時間が経つほど証拠は散逸し、関係者の記憶も曖昧になるため、迅速な証拠収集が不可欠です。

    遺言が無効と確定したら?

    裁判で遺言の無効が確定した場合、その遺言は初めから存在しなかったことになります。したがって、相続人全員で改めて「遺産分割協議」を行い、誰がどの財産を相続するかを決めることになります。

    まとめ

    遺言書の内容に納得がいかないからといって、感情的に「こんなものは無効だ」と主張しても、法的には何の意味もありません。遺言を無効にするには、法律で定められた無効原因が存在し、それを客観的な証拠で証明する必要があります。

    その判断は専門的であり、特に遺言能力の有無が争点となるケースでは、医学的な知見も必要となるため、弁護士のサポートなしに戦うことは困難です。

    遺言書の有効性に少しでも疑問を感じたら、証拠が散逸する前に、相続問題に精通した弁護士にご相談ください。法的な観点から無効を主張できる可能性があるか、そのためにはどのような証拠が必要かをアドバイスし、あなたの正当な権利を守るためのお手伝いをします。


     

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