2026/08/19 コラム
相続放棄の完全ガイド|3か月の期限とやってはいけない注意点を弁護士が解説
はじめに
親が亡くなり、相続が発生した――。それは、預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金やローン、連帯保証債務などのマイナスの財産も引き継ぐことを意味します。
もし、亡くなった方に多額の借金があることを知らずに、安易に相続してしまうと、あなた自身の財産からその借金を返済する義務を負うことになりかねません。
このような事態を避けるために、法律が用意している強力な手段が「相続放棄」です。相続放棄をすれば、プラスの財産を一切受け取れない代わりに、原則としてマイナスの財産も承継しません。
しかし、この相続放棄には、「3か月」という厳しい期限があり、一度手続きをすると、原則として撤回はできません。
この記事では、相続放棄を検討している方のために、その手続きの具体的な流れと、絶対に知っておくべき重大な注意点について解説していきます。
相続放棄とは?その強力な効果と注意すべき影響
相続放棄の定義と効果
相続放棄とは、家庭裁判所に申述(申立て)をすることによって、被相続人(亡くなった方)のプラスの財産(資産)もマイナスの財産(負債)も、その一切を相続しないという意思表示です。
家庭裁判所に相続放棄の申述が受理されると、その人は法律上、「初めから相続人ではなかった」ものとして扱われます。これにより、被相続人が遺した借金の返済義務を一切負う必要がなくなります。
相続権の移動という影響
相続放棄をすると、その人は相続人ではなくなるため、相続権は次の順位の相続人に移っていきます。この点を理解しておかないと、意図せず親族に迷惑をかけてしまう可能性があります。
- 第1順位(子。子が死亡している場合の孫等)が全員相続放棄をすると…
⇒ 相続権は第2順位(父母・祖父母など直系尊属)に移ります。 - 第2順位も全員相続放棄をすると…
⇒ 相続権は第3順位(兄弟姉妹・甥姪)に移ります。
なお、相続放棄は代襲相続の原因にはならないため、子が相続放棄をしても、その子(被相続人の孫)が当然に代襲相続人となるわけではありません。したがって、ご自身が相続放棄をする際には、次に相続人となる親族にその旨を伝え、その親族も相続放棄をする必要があるかどうかを、一緒に検討することが重要です。
【最重要】相続放棄の期限「3か月ルール」
相続放棄でとく二注意しなければならないのが、その期限です。
期限:自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内
起算点(カウントの開始時点)はいつ?
「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、一般的に、以下の両方の事実を知った時を指します。
- 被相続人が死亡したこと
- 自分がその相続人となったこと
3か月を過ぎてしまったらどうなる?
原則として、この3か月の熟慮期間を過ぎてしまうと、あなたは「単純承認」をしたものとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産もすべて相続することになり、もはや相続放棄はできなくなります。
諦めるのはまだ早い!3か月経過後の例外ケース
しかし、直ちに諦める必要はありません。以下のような場合には、3か月を過ぎていても相続放棄が認められる可能性があります。
- 熟慮期間の伸長:相続財産の調査に時間がかかり、3か月以内に放棄すべきかどうかを判断できない、といった正当な理由がある場合は、期限が来る前に家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることで、熟慮期間を延長してもらえます。
- 特別な事情がある場合:「被相続人には借金などないと信じており、そのように信じたことに相当な理由があった」にもかかわらず、3か月経過後に、債権者からの督促状などで初めて多額の借金の存在を知った、というようなケースです。この場合、借金の存在を知った時から3か月以内であれば、相続放棄の申述が受理される可能性があります。
相続放棄の手続きの流れ
Step1:必要書類の収集
相続放棄の申述には、主に以下の書類が必要です。(被相続人と申述人の関係によって必要書類は異なります)
- 相続放棄の申述書(裁判所のウェブサイトからダウンロードできます)
- 被相続人の住民票除票 または 戸籍附票
- 申述人(ご自身)の戸籍謄本
- 申述人が父母・兄弟姉妹等の場合には、被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本など
- 収入印紙、連絡用の郵便切手
Step2:家庭裁判所への申述
集めた書類一式を、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、持参または郵送で提出します。
Step3:裁判所からの照会書への回答
申述後、家庭裁判所から、必要に応じて意思確認等のための「照会書(回答書)」が郵送されることがあります。質問事項(「本当に放棄しますか?」「誰かに脅されていませんか?」など)に正直に記入し、署名・押印して返送します。
Step4:相続放棄申述受理通知書の受領
照会書への回答等を経て、家庭裁判所に申述が受理されると、「相続放棄申述受理通知書」という書面が届きます。これで、相続放棄の手続きは完了です。この通知書のコピーを、借金の債権者に提示することで、あなたが相続人ではないことを証明できます。
相続放棄をする前に知っておくべき重大な注意点
注意点①:一度受理されると、原則として撤回できない
「借金だけを放棄して、不動産は相続したい」ということはできません。また、一度相続放棄が受理されると、後から価値のある遺産が見つかったとしても、「やっぱり相続します」と考えを覆すことは、原則として認められません。
注意点②:「法定単純承認」に注意!相続財産を処分してはいけない
相続放棄を検討している期間中に、相続財産の一部でも使ったり、売却したり、壊したりすると、法律上、単純承認(=すべてを相続する意思)があったとみなされ、相続放棄ができなくなってしまいます。
問題のある行為の例
- 被相続人の預金を引き出して、自分のために使う。
- 被相続人名義の不動産や自動車を売却する。
- 遺産分割協議に参加し、合意してしまう。
問題ない行為の例
- 故人の財産的価値のない遺品を形見分けする。
- 故人の財産から、社会通念上相当な範囲で葬儀費用を支払う。
注意点③:相続財産の管理義務が残る場合がある
相続放棄をした時に相続財産に属する財産を現に占有している場合には、次に相続人となる人や相続財産清算人に引き渡すまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務が残ります。特に、誰も相続人がいなくなる場合の空き家の管理などには注意が必要です。
まとめ
相続放棄は、多額の借金からご自身とご家族の生活を守るための、非常に有効な法的手段です。しかし、「3か月」という厳格な時間制限があり、一度行うとやり直しがきかない、という重大な決断でもあります。
被相続人に借金がある可能性に気づいたら、財産の全容が分からないまま安易に手続きを進めたり、逆に放置して期限を過ぎてしまったりすることのないよう、できるだけ早く、相続問題に詳しい弁護士にご相談ください。
弁護士は、迅速な財産調査のサポートから、必要に応じた熟慮期間の伸長申立て、そして相続放棄手続きの代行まで、あなたが正しい判断を下し、確実に手続きを完了させるためのお手伝いをいたします。
【弁護士法人長瀬総合法律事務所のYouTubeチャンネル 】
企業法務に関する問題を解説したYoutubeチャンネルを運営しています。
ぜひご視聴・ご登録ください。
【メールマガジンのご案内】
無料WEBセミナー開催のお知らせや、事務所からのお知らせをメールで配信しています。
ぜひこちらのご登録もご検討ください。

