コラム

2026/05/24 コラム

雨漏り・シロアリ被害…契約不適合責任で売主に請求できる5つの権利

はじめに

「引渡しを受けたばかりの中古住宅で、雨の日に天井から水が滴ってきた」
「リフォームをしようとしたら、床下の土台がシロアリに食い荒らされていた」

不動産の購入は、人生で最も高額な買い物の一つです。しかし、念願のマイホームを手に入れた喜びも束の間、こうした重大な欠陥(不具合)が発覚すれば、そのショックと不安は計り知れません。

もし、購入した不動産に契約内容と異なる欠陥があった場合、買主であるあなたは売主に対して法的責任を追及することができます。これを「契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)」といいます。

2020年の民法改正により、この責任追及の仕組みは、買主にとってより使いやすく、かつ強力なものへと生まれ変わりました。しかし、具体的にどのような権利を行使できるのか、正確に理解している方は多くありません。

本記事では、雨漏りやシロアリ被害などの具体的なトラブルを例に挙げながら、契約不適合責任に基づいて売主に請求できる「5つの権利」について解説します。

解説

1. 雨漏り・シロアリ被害と契約不適合責任

具体的な権利の話に入る前に、まず「契約不適合責任」がどのような場合に成立するのか、その基本を押さえておきましょう。

(1) 「契約の内容」と適合しないことが条件

契約不適合責任とは、引き渡された目的物が「種類、品質または数量に関して契約の内容と適合しない」場合に、売主が負う法的責任です。

以前の「瑕疵担保責任」では、「隠れた瑕疵(買主が注意しても気づかなかった欠陥)」であることが要件でしたが、現在は「契約書にどう書かれていたか(どのような合意があったか)」が判断の基準となります。

雨漏りの場合

契約書の「物件状況報告書(告知書)」などで、「雨漏り:無」と記載されていたにもかかわらず、実際には雨漏りが発生していた場合、これは「品質」に関する契約不適合となります。

シロアリの場合

同様に、「シロアリ被害:無」とされていたのに、床下の木材が腐食していた場合も契約不適合です。ただし、シロアリ被害がごく一部で、建物の強度に影響を与えない軽微なものである場合、「直ちに不適合とは言えない」と判断されるケースもあります。

(2) 売主の「過失」は問われない(損害賠償以外)

これから解説する5つの権利のうち、損害賠償請求以外の4つ(修補、代替物、減額、解除)については、売主に落ち度(過失)がなくても請求可能です。

「売主も知らなかった」「わざと隠したわけではない」という言い訳は通用しません。契約内容と異なるものを引き渡したという事実だけで、責任が発生します。

2. 売主に請求できる「5つの権利」ガイド

民法改正によって整理された、買主がとりうる手段は以下の5つです。状況に合わせて、これらを適切に選択・組み合わせることが重要です。

権利:修補請求権(直してほしい)

最も基本的かつ、最初に行使すべき権利が「履行の追完請求権」の一つである修補請求です。簡単に言えば、「契約通りの完全な状態に直してください」と求める権利です。

内容

  • 雨漏り箇所の特定と防水工事。
  • シロアリの駆除および、食害を受けた木材の交換・補強。
  • 給排水管の故障の修理など。

注意点

  • 買主は「方法」まで指定することは原則としてできません。例えば、「最高級の防水材を使って直せ」といった過剰な要求は認められず、あくまで「契約内容に適合させるための合理的な方法」での修理となります。
  • 売主が修理を拒否した場合や、修理しても直らない場合に、次のステップ(減額請求など)に進みます。

権利:代替物引渡請求権(まともなものと交換してほしい)

これも「履行の追完請求権」の一つですが、不動産取引においては少し特殊な位置づけになります。欠陥のある物件の代わりに、同じ種類の欠陥のない物件を引き渡すよう求める権利です。

適用されるケース

  • 新築の分譲マンションや建売住宅: まだ売れていない同じ間取り・仕様の部屋(住戸)が他にある場合、交換を請求できる可能性があります。
  • 土地(分譲地): 同じ分譲地内で、同条件の別の区画への交換など。

適用が難しいケース

中古住宅(一点物): 中古物件は、立地、築年数、使用状況などを含めて「世の中に一つしかない物(特定物)」です。そのため、代わりの物を用意することが物理的に不可能であり、この権利を行使することは現実的には困難です。

権利:代金減額請求権(安くしてほしい)

修理ができない場合や、売主が修理に応じない場合に、その欠陥の程度に応じて売買代金を減額してもらう権利です。

行使の条件

  1. まず、相当の期間を定めて「修理(追完)」を催告する。
  2. その期間内に売主が修理しない場合に行使可能。
    ただし、「修理不能」が明らかな場合や、「修理する意思がない」と売主が明確に拒絶した場合は、直ちに減額請求できます。

    計算方法

    • 基本的には「修理にかかる費用相当額」や「欠陥があることによる評価損(市場価値の下落分)」が減額の対象となります。
    • 例えば、3000万円で購入した家に、修理費200万円相当の重大な雨漏り欠陥があった場合、2800万円への減額(差額200万円の返還)を請求します。

    権利:契約解除権(白紙に戻したい)

    欠陥があまりにも重大で、「これでは家を買った目的(居住など)が達成できない」という場合に、売買契約そのものを解除する権利です。

    効果

    • 契約は最初からなかったことになります。
    • 売主は受け取った代金を全額返還し、買主は物件を返還します。

    行使の条件(催告解除)

    • 修理を求めたのに応じてもらえない場合に解除できます。
    • ただし、不適合が「軽微」である場合は解除できません(代金減額などで解決すべきとされます)。

    行使の条件(無催告解除)

    建物が倒壊寸前で住むことが不可能など、「修理しても契約の目的を達成できない」ことが明らかな場合は、修理の催告なしに直ちに解除できます。

    雨漏り・シロアリでの判断

    単なる雨漏りや部分的なシロアリ被害では、修理すれば住めるようになるため、解除までは認められないケースが多いです。しかし、「建物の構造自体が腐食して危険」「修理費用が建て替え費用に匹敵する」といった極端なケースでは解除が認められる可能性があります。

    権利:損害賠償請求権(損をした分を払え)

    上記の4つの権利とは別に、あるいは並行して請求できるのが損害賠償です。

    欠陥によって生じた様々な金銭的被害を補償してもらう権利ですが、これには重要な条件があります。

    行使の条件

    • 売主に「帰責事由(過失・落ち度)」があること。
    • ここが他の権利との最大の違いです。売主が「自分には過失がない(自分も知らなかったし、知ることもできなかった)」と証明できた場合、損害賠償請求は認められません。

    請求できる範囲

    • 信頼利益: 登記費用、契約印紙代、仲介手数料など。
    • 履行利益: 転売予定だった場合の逸失利益など(新法で認められやすくなりました)。
    • 拡大損害: 雨漏りで家具や家電が濡れて壊れた場合の被害額、修理期間中の仮住まい費用(ホテル代や賃料)、引越し費用など。

    雨漏り・シロアリでの実務

    修理費用自体は「修補請求」や「減額請求」でカバーできますが、「濡れた家具代」や「調査費用」などは損害賠償で請求することになります。

    3. 権利を行使するための「期間制限」に注意

    これらの強力な権利も、いつまでも使えるわけではありません。法律で定められた期間内にアクションを起こさないと、権利が消滅してしまいます。

    (1) 「知った時から1年以内」の通知義務

    民法566条により、買主は「不適合を知った時から1年以内」にその旨を売主に通知しなければなりません。

    • 「引き渡しから」ではありません: 入居して3年後に雨漏りに気づいた場合、そこから1年以内に通知すればOKです。
    • 通知の内容: 具体的にどのような不具合があるかを伝える必要があります。「調子が悪い」だけでは不十分で、「北側洋室の天井から雨漏りしている」といった具体的な通知が求められます。
    • 方法: 後で「聞いていない」と言われないよう、内容証明郵便で行います。

    (2) 消滅時効(5年・10年)

    通知義務とは別に、権利を行使できる期間(時効)があります。

    • 権利を行使できることを知った時から5
    • 権利を行使できる時(引き渡し時)から10

    いずれか早い方で時効にかかります。つまり、どんなに遅くとも引き渡しから10年で責任追及はできなくなります。

    (3) 宅建業者が売主の場合の特則

    売主が不動産業者(宅建業者)である場合、買主に不利な特約は無効とされます(宅建業法40条)。

    したがって、「引き渡しから2年以上」の期間を設けることが義務付けられています。契約書に「引き渡しから1年で責任免除」と書いてあっても、それは無効となり、民法の原則(知った時から1年)が適用されます。

    4. トラブル発生から解決までのステップ

    実際に雨漏りやシロアリ被害を発見した場合、どのような手順でこれら5つの権利を行使すべきでしょうか。

    ステップ1:被害状況の証拠化

    • 被害箇所の写真や動画を詳細に撮影します。
    • 雨漏りの場合、いつ、どの程度の雨で、どこから漏れたかを記録します。
    • リフォーム業者や建築士に見てもらい、見積書や調査報告書(シロアリ被害の写真など)を作成してもらいます。
    • 重要: 売主に連絡する前に、勝手に修理をしてはいけません。「元々どうだったか」がわからなくなり、証拠隠滅と疑われるリスクがあります。

    ステップ2:契約内容の確認

    • 売買契約書と重要事項説明書を確認します。
    • 「契約不適合責任」に関する条項や特約(期間制限や免責事項)がどうなっているかチェックします。
    • 「現状有姿(そのまま引き渡す)」という特約があっても、売主が宅建業者であれば無効の可能性がありますし、個人間売買でも売主が知っていて告げなかった欠陥については責任を免れません。

    ステップ3:内容証明郵便による通知

    • 期限(知ってから1年など)内に、売主に対して通知を送ります。
    • まずは「修補(修理)」を求めるのが一般的です。

    ステップ4:交渉・合意

    • 売主側が現地確認を行い、修理の範囲や方法、費用負担について話し合います。
    • 話がまとまれば、「合意書」を作成して修理を実施してもらいます。

    ステップ5:法的措置(調停・訴訟)

    売主が「引き渡し後に発生したものだ」「経年劣化だ」と言い張って責任を認めない場合、弁護士を介して交渉するか、裁判所での解決を図ります。

    5. 泣き寝入りする前に弁護士へ相談を

    雨漏りやシロアリといった欠陥は、建物の寿命を縮める重大な問題です。「中古だから仕方がない」と諦める必要はありません。

    しかし、契約不適合責任の追及には、建築的な知識と法的な知識の両方が求められます。

    • 「この雨漏りは、引き渡し前から原因があったと言えるか?」
    • 「契約書のこの特約は有効なのか?」
    • 「損害賠償としてどこまで請求できるか?」

    これらを個人で判断し、不動産業者や売主と対等に交渉するのは非常に困難です。

    弁護士法人長瀬総合法律事務所では、建築士や土地家屋調査士などの専門家とも連携し、不動産トラブルの解決に力を入れています。

    欠陥住宅の問題は、時間が経てば経つほど原因究明が難しくなり、時効のリスクも高まります。被害に気づいたら、まずは契約書をお手元にご用意の上、当事務所の無料相談をご利用ください。

    あなたが手に入れた大切な住まいと、安心できる生活を取り戻すために、私たちがサポートいたします。


     

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