2026/06/10 コラム
家賃滞納者への対応|督促から強制退去(建物明渡請求)までの流れと費用
はじめに
「家賃が数ヶ月も振り込まれていない」
「督促の電話をかけても着信拒否されている」
「部屋に行っても居留守を使われて話ができない」
賃貸経営を行うオーナー様にとって、家賃滞納は収益を圧迫するだけでなく、精神的にも大きなストレスとなる深刻な問題です。
「そのうち払ってくれるだろう」と温情をかけて待っている間に、滞納額は膨れ上がり、回収不能なリスクが高まっていきます。さらに、悪質な入居者が居座り続けることで、新たな入居者を迎える機会も失われてしまいます(機会損失)。
日本の法律は、入居者(借主)の権利を手厚く保護しているため、たとえ家賃を滞納していても、オーナー様が勝手に鍵を交換したり、荷物を外に出したりすることは「自力救済の禁止」として違法とみなされます。
したがって、家賃滞納者を退去させるためには、適正な法的手続きを、迅速かつ確実に行う必要があります。
本記事では、家賃滞納の初期対応から、内容証明郵便による契約解除、裁判、そして最終手段である強制執行(強制退去)までの具体的な流れと、それにかかる費用の相場について解説します。
解説
1. 家賃滞納が発生した際の「初期対応」
家賃滞納への対応は「スピード」が命です。滞納が1ヶ月でも発生したら、すぐにアクションを起こす必要があります。
(1) 電話・メール・訪問による督促
まずは、入居者のうっかり忘れ(口座の残高不足など)の可能性を考慮し、電話やメールで連絡を取ります。
連絡がつかない場合は、連帯保証人にも連絡を入れ、状況を伝えます。
- ポイント: ここでのやり取り(いつ電話したか、どんな話をしたか)は、後で裁判になった際の証拠となります。必ず日時と内容を記録(メモや録音)しておきましょう。
(2) 書面による督促
電話や訪問に応じない場合、書面(普通郵便)で督促状を送ります。
文面には、「○月分と○月分の家賃合計○○円が未納です。○月○日までに振り込んでください」と具体的に記載します。
(3) 内容証明郵便の送付(最後通告)
滞納が続き、信頼関係が崩れかけている場合は、普通郵便ではなく「内容証明郵便」を送ります。
これは、「誰が、誰に、いつ、どんな内容の文書を送ったか」を郵便局が証明してくれる制度です。
記載すべき内容
- 滞納家賃の総額と支払期限
- 期限内に支払いがない場合、賃貸借契約を解除する旨の通知
この内容証明郵便は、将来的に裁判で「契約解除の正当性」を主張するための決定的な証拠となります。弁護士名義で送付することで、入居者に「これ以上無視すれば裁判になる」という心理的プレッシャーを与え、支払いや自主退去を促す効果も期待できます。
2. 契約解除と「信頼関係の破壊」
日本の借地借家法では、借主の権利が強く守られており、わずかな滞納だけでは直ちに契約を解除し、退去させることは難しいのが現実です。
裁判所が契約解除(建物明渡請求)を認めるためには、「信頼関係の破壊」があったかどうかが判断基準となります。
「信頼関係の破壊」とは?
貸主と借主の間の信頼関係が著しく損なわれ、契約を継続しがたい状態であることを指します。
実務上、一般的には「3ヶ月分以上の家賃滞納」があれば、信頼関係が破壊されたとみなされ、契約解除が認められる傾向にあります。
つまり、滞納が1〜2ヶ月の段階では、法的に強制退去させることは困難ですが、3ヶ月を超えた時点で法的手続き(裁判)へ移行する準備を完了しておく必要があります。だからこそ、初期段階からの迅速な対応が不可欠なのです。
3. 法的手続きの流れ(裁判〜強制執行)
内容証明郵便を送っても支払いがなく、自主的な退去も拒否された場合、いよいよ裁判所を通じた手続きに入ります。ここからは、専門的な知識が必要となるため、弁護士への依頼が強く推奨されるフェーズです。
ステップ1:占有移転禁止の仮処分
これは、裁判を起こす前にやっておくべき重要な手続きです。
裁判で勝訴しても、その効力は「裁判の相手方(被告)」にしか及びません。もし、裁判中に悪質な入居者が、第三者(別の知人など)に部屋を又貸しして占有者を入れ替えてしまうと、判決が出てもその第三者に対して強制執行ができなくなってしまいます。
これを防ぐために、あらかじめ裁判所に申し立てを行い、「現在の入居者が、部屋の占有権を他人に移すことを禁止する」仮処分を行います。
執行官が現地に赴き、部屋の中に「公示書」を貼り付けることで効力を発揮します。
ステップ2:建物明渡請求訴訟(裁判)
正式に、滞納家賃の支払いと、建物の明け渡しを求めて提訴します。
- 審理: 第1回期日は、提訴から約1ヶ月後に開かれます。
- 相手方の対応:
- 欠席: 相手が裁判所に来なければ、原告(オーナー様)の主張通りの判決が出ます。
- 出席: 相手が出席し、「分割払いにするから住まわせてほしい」などと抗弁した場合、裁判官から「和解」を提案されることがあります。和解条項(期限を過ぎたら直ちに退去するなど)をしっかり定めて和解するのも一つの手です。
- 判決: 和解が成立しない場合、判決が言い渡されます。契約解除が正当と認められれば、「被告は原告に対し、建物を明け渡せ」という判決が出ます。
ステップ3:強制執行(断行)
判決が出ても相手が居座り続ける場合、国家権力を使って強制的に退去させる「強制執行」を行います。
- 強制執行の申立て: 裁判所に申し立てを行い、執行官と打ち合わせをします。
- 明渡しの催告(さいこく): 執行官と共に現地へ行き、入居者に対して「○月○日までに退去しなさい。さもなくば強制的に荷物を搬出します」と通告し、公示書を貼ります。この時点で観念して自主退去する入居者もいます。
- 明渡しの断行(だんこう): 指定した期限までに退去しない場合、執行官立ち会いのもと、専門の業者が鍵を開錠し、室内の家財道具や荷物をすべて搬出し、保管場所へ移動させます。
- 鍵の交換と引渡し: 部屋が空になった状態で鍵を交換し、ようやく物件がオーナー様のもとへ戻ってきます。
4. 建物明渡請求にかかる「費用と相場」
法的措置をとる場合、どうしても避けられないのが費用です。「家賃が入ってこないのに、さらにお金がかかるのか」と思われるかもしれませんが、早期に解決して次の入居者を募集したほうが、トータルの損失は抑えられます。
費用は大きく分けて、「弁護士費用」と「実費(裁判費用・執行費用)」があります。
- 弁護士費用
当事務所における弁護士費用の詳細は以下をご覧ください。
https://fudousan-nagasesogo.com/fee/
(2) 裁判所予納金・実費の相場
- 印紙代・切手代: 数万円
訴訟の目的価額(建物の固定資産税評価額など)によって変動します。 - 予納金: 6万円〜
執行官の手数料などとして裁判所に預けるお金です。
(3) 強制執行にかかる費用の相場(※ここが高額になりやすい)
強制執行(断行)まで進んだ場合、荷物を搬出する作業員の人件費、トラック代、荷物の保管料、鍵の交換費用などがかかります。これらは原則として原告(オーナー様)の負担となります(後で入居者に請求できますが、支払い能力がないケースがほとんどです)。
- 作業員・運搬費: 1坪あたり3万円〜5万円程度
- 1R・1K(荷物少なめ):10万円〜20万円
- 2DK・ファミリー(荷物多め):30万円〜50万円以上
- 鍵交換費用: 2万円〜3万円
- 荷物保管料・処分費: 数万円〜
トータルの目安
裁判から強制執行までフルコースで行った場合、弁護士費用と実費を合わせて100万円以上かかることも珍しくありません。
しかし、交渉段階や「明渡しの催告」の段階で相手が退去すれば、強制執行の費用(数十万円)は節約できます。
だからこそ、「いかに早い段階で、相手に諦めさせて自主退去させるか」という弁護士の交渉力が重要になるのです。
5. やってはいけない「自力救済」のリスク
家賃を払わない相手が悪いのだから、といって以下のような実力行使に出ることは、法律で厳禁されています。
- 勝手に鍵を交換して、部屋に入れないようにする。
- 部屋に入り込み、借主の荷物を勝手に処分する・外に出す。
- 玄関ドアに「家賃を払え!」「出て行け!」などの貼り紙をする。
- 電気・ガス・水道などのライフラインを勝手に止める。
これらは「自力救済(じりききゅうさい)」と呼ばれ、違法行為です。
これを行うと、逆に借主から「住居侵入罪」「器物損壊罪」「窃盗罪」などで刑事告訴されたり、多額の損害賠償を請求されたりするリスクがあります。
「家賃を滞納されている被害者」だったはずのオーナー様が、一転して「犯罪者・加害者」になってしまう最悪のケースです。感情的にならず、法的手続きを踏んでください。
6. 家賃滞納トラブルを弁護士に依頼するメリット
家賃滞納への対応は、ご自身で行うことも不可能ではありませんが、多大な労力と精神的ストレスがかかります。弁護士に依頼することで、以下のようなメリットが得られます。
メリット①:入居者へのプレッシャーと早期解決
弁護士名義の内容証明郵便が届くだけで、「本気だ」「裁判になる」と相手が観念し、裁判になる前に支払いや退去に応じるケースが多々あります。これにより、時間と費用(強制執行費用など)を大幅に節約できます。
メリット②:複雑な法的手続きを一任
訴状の作成、証拠の収集、占有移転禁止の仮処分、裁判所への出廷、執行官との打ち合わせなど、専門知識を要する煩雑な手続きをすべて任せることができます。
メリット③:感情的なトラブルの回避
滞納者の中には、逆上して暴言を吐いたり、脅迫めいた態度をとったりする人もいます。弁護士が窓口となることで、オーナー様が直接矢面に立つ必要がなくなり、精神的な負担が軽減されます。また、連帯保証人への請求も漏れなく行い、少しでも多くの未納家賃を回収できるよう動きます。
まとめ
滞納は「時間との勝負」。傷が広がる前にご相談を
家賃滞納は、放置すればするほど状況が悪化します。
「まだ1ヶ月だけだから」「話し合えばわかるはず」という優しさが、結果として数百万円の損失につながることもあります。
また、強制執行まで進むと高額な費用がかかりますが、弁護士が早期に介入し、適切な交渉を行うことで、裁判や強制執行を回避し、任意での退去(合意解除)に持ち込める可能性も高まります。
「家賃が遅れがちだ」
「連絡がつきにくくなった」
そう感じた時点で、すでにイエローカードです。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、不動産オーナー様、管理会社様からのご相談を多数承っており、迅速な明渡しと債権回収の実績が豊富です。
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